ベンチャーって“スピード”しかないんですね。ヒト、モノ、カネ、すべてがなくて、スピードしかない。だから、そのスピードで負けたら会社がつぶれるという危機感がすごいんです。今思えば「あなたを認めているから、期待している」と伝えるべきなのに、「認めている」ということを伝えられていませんでした。そこはすごく反省しています。

 何もないベンチャーに来てくれる人なんて珍しいじゃないですか。だからこそ、その時の1人の存在がめっちゃ大きいんです。それで、すごい寂しさと焦りと悲しさと――そういうものが混ざって、感情をぶつけてしまっていました。感情をぶつけたらロクなことはないですよね。もうね。ひどいですよ。

――そういう摩擦があったときは落ち込むんですか。

 めっちゃ落ち込みますよ。しかも10人、20人のメンバーのうち1人が辞めると、開発が止まるんです。なんか、今立っている地面が抜けるみたいな感じです。恐怖です。

 あるときに役員から、「新しく入ってきたばかりのメンバーは、(社長が直接新人と話すような)フラットな組織だと分からない。それでいきなり社長から直接怒られたら3日で辞めますよ」と言われました。それから、注意をする際は、人を介して伝えるようになりました。

うちは「トップダウンな会社」じゃない

――いろんな価値観が入ってくる中で、あえて期待値を下げるということはあるんですか。

 おっしゃる通りで、みんなに高い位置を求めていたわけです。100メートルを20秒で走る人に対して「10秒で走れるだろう」と言っていました。もっといろんなトレーニングをしないと絶対無理なのに、「今すぐ10秒で走れ」と言ってしまっていました。自分でも走れないくせにね。

 だから、相手の能力とか立場というものをすごく意識するようになりました。当社はジョブグレードや組織貢献力という評価軸があるんですが、そういうものを意識しながら、「この人にはどう伝えたらいいだろうか」と考えています。実は上場後、人がちょっと抜けた時期があるんです。そのときにいろいろ考えました。

――ですが一方で、経営者は「そんなの気にしてられない」という気持ちも必要だと思うんですが。

 それはあります。ですが、そこには矛盾もあって。経営者はトップダウンでやらないといけない。でも人は腹落ちしないことには動かないじゃないですか。そこにもすごい説明責任があるんです。トップダウンな会社は楽だなとも思います。でもうちの会社ってそういうところじゃないですから。