――でも、トップダウンの組織に憧れている時期もありましたよね。辻さんの机の上にはいつも本が置いてあるんですけど、あるとき独裁力(木谷哲夫『独裁力』(ディスカヴァー・トゥエンティワン))って本がありました。
しかもね、間違えて同じ本を3冊買っていました。
――どんだけ独裁(笑)。
独裁って、仕組みでできるんですよ。だからそれは勉強になりましたよ。
――その仕組みはなぜ取り入れなかったんですか。
うちには向いてないなと思ったんで。文化が違うんです。
でもたまにトップダウンに憧れます。たとえば当社が、「MFクラウド」というBtoB向けブランドの名前を「マネーフォワードクラウド」に変えたじゃないですか。
あのときはもうね、めっちゃ反対意見が来ました。僕はブランドに対しての理解や会社の立ち位置、世の中からどう見られてるか、戦略がどうか、そういうことを総合的に考えて、「ブランド名を変えるべき」と意思決定をしました。
ですがそれを……たとえば新卒の子に理解してもらうためには、僕が持っている情報を全部渡して、理解してもらわないといけない。かといって、説明しないわけにはいかないですから、大変でした。
怒りをぶつけることは、相手の怒りしか生まない
――昔怒りまくっていたという辻さんを、「想像つかない」と言う社員も多いです。そこは明確に変えられたんですか。
変えましたね。怒りをぶつけることは、相手の怒りしか生まないんです。僕は、怒りをぶつけたいわけじゃなくて、問題を解決したいだけなんです。なのに、感情が先走ってしまっていた。これはもう、経営者として失格だと思ったんです。このやり方は長続きしないし、組織が大きくなる上で、これでは誰もついてこなくなる。コミュニケーションを変えるべきだと思いました。
(気合を入れて)「行くぞー!」と言うときには感情を出すんですけれども、負の感情は出す意味がないなと思ったタイミングがあったんです。そこからコミュニケーションの方法が変わった気がします。
――なんとなく辻さんに退職の意思が漏れ伝わって、退職をやめたような人はいますか。
もちろん、それはいます。
――何を言ったらその人はとどまったんですか。
辞める理由が、「会社のステージが変わったから」といった場合はもう仕方がないですよね。もっと小さいベンチャーに行きたいとか。
でも、十分に活躍できていないとか、不満があるというときは「じゃあ、こういうポジションはどう?」といった提案をすると、「別にマネーフォワードが嫌いなわけじゃないから、続けたいです」と言ってくれることがあります。