日本ならではの繊細さ、儚さが
アニメ作品には込められている
――先生は、アニメやゲーム、漫画などの創作物が娯楽を超えて治療的に機能していくメンタルケアとしての「アニメ療法」を研究しています。日本社会には、ここまで話してくださったような特有の息苦しさがある一方、そのような文化や精神性がこの国の作品にも影響を与えていると考えられますか?
現実的な生活に自己表現の難しさがあるからこそ、その対価のように物語作品には日本人の理想や繊細な感情が込められ、純粋度が高いものになっていると感じます。だからこそ僕も思春期の頃から思い悩んでいるときにずっと日本の作品に支えられてきました。
最近、あらためて素晴らしい作品だと感じているのが『葬送のフリーレン』(小学館『週刊少年サンデー』にて連載中)です。主人公のフリーレンは1000年以上長く生きるエルフで、周囲の人間が亡くなる中で、人間を知るための旅を続けます。物語には日本人のテーマである“儚さ”や悲しみが描かれる一方、哲学的で強いメッセージも込められています。淡い色合いの絵を楽しみながら不思議なくらい癒やされる。元気をなくしている人にもお薦めできる作品です。
僕は、患者さんの状況や症状に合わせたアニメを一緒に選びながら対話し、作品を通じてその人自身の物語を再構築する手助けがしたい。作品の創作にも関わりたい、と思い、「アニメ療法」の研究を続けています。
――アニメ療法は若年層にも有効だと思います。日本人は、先進国(G7)の中でも、児童、生徒の自殺率が高いことが問題視されています。
発達過程にある子どもは感情の調節が未熟で、大人よりさらにストレスに敏感です。大人からのプレッシャーや同世代のいじめなどで追い詰められると、極端な行為に走ってしまいやすい。臨床を経験し気づいたのは、イタリアでは、世代を問わず患者は苦しさを繰り返し表現し続けた上で、どうしようもなくなると希死念慮を訴える、という流れがあるのに対して、日本では全く周囲にサインを出さないままいきなり自殺、という行動に至ってしまう方が多いことです。
ものすごく苦しんでいても手助けを求めない、求められないのが残念ながら日本社会の特徴です。精神科を受診することは恥ずかしい、というスティグマ(ネガティブなレッテル、偏見)を変えていくこと、また、脆弱性を認める文化が育たないといけない、と強く思っています。