国内市場の縮小傾向が続く中、今後の鉄鋼メーカーの命運を握るのが「海外」戦略だ。特集『日本再浮上&AIで激変! 5年後のシン・業界地図』(全16回)の#6では、この視点を一つの切り口として国内三大メーカーの日本製鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼所の5年後を展望。さらに、独立系電炉メーカーの東京製鐵と大和工業に期待大の理由を解説する。(ダイヤモンド編集部 竹田幸平)
鉄鋼業界を左右する「海外&脱炭素」
東京製鐵&大和工業に熱視線
「構造的な市場縮小に直面している」。鉄鋼セクターを担当するトップアナリスト、SMBC日興証券の山口敦シニアアナリストは、国内鉄鋼市場に厳しい見方を示す。
何しろ、日本鉄鋼連盟によると、月次の粗鋼生産量は今年5月分が764.9万トンと、17カ月連続で前年同月より減少(下図参照)。2014年9月~16年3月(19カ月連続減)以来の前年同月比マイナスに沈む。コロナ禍からの経済正常化が進み、日本経済が底入れした中での低迷ぶりに、事態の深刻さがうかがえるというわけだ。
背景には、少子高齢化や製造業の競争力低下などがあるが、前出の山口氏はこのところ、国内ではとりわけ「大口需要先である建設向けが弱い」と指摘する。
しかもこの先、大口の最終需要先である自動車業界では、内燃機関からEV(電気自動車)シフトが進む。するとエンジンの中核部品となるクランクシャフトや、自動車向け特殊鋼などの需要減が避けられない。
つまり、国内市場だけではジリ貧傾向は不可避。そこで、成長への突破口を見いだすために、M&A(合併・買収)を含む「海外」戦略の重要性が増すことになる。
もう一つ、この先を占う上で見逃せないのが「脱炭素」の潮流だ。生産過程で大量の二酸化炭素(CO2)排出量が生じる、重厚長大産業だからこそ取り組むべきともいえるが、各社ともいまだに明確な対処法を見いだせてはいない。
製鉄には工程上、上流の中核設備「高炉」を使った方式と、鉄くずを電気炉で溶かす「電炉」の方式がある。そして、世界では製造時の二酸化炭素排出量が数分の1に抑えられるとされる、電炉へのシフトが進みつつある。ただ現状は、国内粗鋼生産量の約4分の3が高炉方式で、米国や欧州に比べて電炉方式の比率が低い。
国内三大メーカーの日本製鉄とJFEスチール(持ち株会社はJFEホールディングス)、神戸製鋼所も高炉を持つ一貫製鉄会社。既存の高炉設備との兼ね合いから、国内メーカーは電炉化を進めると実質的な生産性が急低下するジレンマに直面してしまうのだ。
そこでにわかに熱視線を浴びるのが、独立系の電炉メーカーである東京製鐵と大和工業だ。山口氏は、両社についてそれぞれ異なる理由から、業界内で潜在力の高いダークホース的な存在に挙げる。
以降では、国内三大メーカーの明暗について、海外戦略を一つの切り口として分析。脱炭素の潮流も踏まえ、鉄鋼業界の未来シナリオをひもといていく。