“県議会のドン“が不在で
会派はバラバラの状態

 地方レベルの選挙では自民党が圧倒的優位に立つが、より大きな規模の選挙では異なる結果が出るのは、地域住民の投票行動の違いや、候補者の資質、政治的なイメージなど、さまざまな要因が絡み合っているからだろうが、自分以外の選挙や、県議会での意思決定で、一つにまとまれないのは静岡自民党の体質かもしれない。

 静岡県議会が川勝氏を知事職からいまだに引きずり下ろすことができない状況の中で、2025年6月に予定されている次の静岡知事選に、自民党から強力な対抗馬が出るのかどうかが問題となっているが、静岡県選出の自民党国会議員の存在感はない。

 比例復活で当選した塩谷立衆議院議員(安倍派・座長)は、2017年の前々回の知事選で細野豪志衆議院議員(当時民進党、現在自民党)の立候補の意思を黙殺し、2021年の知事選では1年前から準備したにもかかわらず有力候補を立てられずに大敗を喫した。さらに、最近の安倍派の裏金問題で、当面の間、表舞台に立つことはできないだろう。

 塩谷氏以外にも、静岡県には、上川陽子外相や城内実自民党静岡県支部連合会会長などがいるが、彼らは国政において外交分野の経験が多く、川勝知事への対抗に積極的な動きを見せていない。彼らには県内の重要な問題に対する熱意が不足しているように見える。

 先日、採決された川勝知事への不信任決議案は、地方自治法第178条の規定により、議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の賛成が必要だが、1票足らず否決された。自民党職員の一人はこう解説する。

「川勝知事を支持する『ふじのくに県民クラブ』会派の議員たちが、もし1人でも反対に回っていれば、不信任決議が可決された。しかし、これを実現できるような寝技を得意とする自民党の議員がいなかった。静岡県は東部、中部、西部と地域ごとに異なる気質を持っており、自民党の県議団にもそれぞれの地域から声の大きい議員がいる。しかし、全体をまとめ上げることができるような強力なリーダー、いわゆる“県議会のドン“が不在で、結果として会派はバラバラの状態にある。議会は県政に絶大な力を持つにもかかわらず、川勝知事の好き勝手を許してきたのは議会の責任だ。現在、世論は川勝知事に大きな反発を示しているのだから、議会がもっとアグレッシブに行動すべきだ」

「なめられてるんだよ、完全に!」
県議会と知事の緊張関係

 とはいえ、川勝知事に吹く風向きは随分変わってきたようだ。文化事業「東アジア文化都市」の発展的継承センターの建設に関して、川勝平太静岡県知事は議会の承認を得る前に、「東アジア文化都市を継承する拠点を三島市に作りたい。土地を物色していて、『詰めの段階』に入っている」と発言し、独断で三島市に拠点を造る計画を進めていることを発表した。

 これに対して、県議会のある議員が「訂正させろ!もうちょっと闘う姿勢を見せないとだめ!なめられてるんだよ、完全に!訂正させなきゃだめ!」と強く反発するなどした結果、県議会は川勝知事に発言の訂正を求める決議案を全会一致で可決した。この状況に慌てた川勝知事は、自身の発言を謝罪し、計画を白紙に戻すと表明した。この一連の出来事は、現在の県議会と知事との間の緊張関係を浮き彫りにしている。