提訴に至った経緯と訴状の詳細
ニューヨーク・タイムズは提出した訴状の冒頭で、自社のビジネスモデルについて記している。過去170年以上、その価値観を磨くために同社は政治や経済などを深く掘り下げ、見解を世界に提供し続けてきた。
当然のことながら、専門的な知見を持つ記者の獲得や育成にはコストがかかる。時にリスクを冒して特派員を送り、紛争の現場を取材することもある。そうした費用や危険性の負担は、世界の真実をより公正に伝えるために欠かせないことだ。
訴状によると、マイクロソフトやオープンAIは、ニューヨーク・タイムズが配信した数百万もの記事を“違法に利用(unlawful use)”し、ジェネラティブAIの学習を強化した。オープンAIなどが用いたのは、ニュース記事、特定のトピックを深く考察したコラム、商品レビューなど多岐にわたるという。いずれも、著作権はニューヨーク・タイムズに帰属する。
違法な利用と表現した真意は、他の購読者と比較した場合、AI企業のコスト負担は著しく軽いということだろう。訴状の2ページ目には、「マイクロソフトやオープンAIはニューヨーク・タイムズが行ったジャーナリズム強化のための投資の成果を、許可と相応の対価の支払いなく“ただ乗り”しようとした」との記述もある。
AI企業が、記事内容などをチャットボットの学習やサービス強化に利用しているとの主張は、それなりの説得力を持つ。ニューヨーク・タイムズはすでに23年4月、知的財産(ニュース記事やコラムなど)の利用に関する懸念を伝えていた。その時点では、友好的な解決策を目指して協議を呼びかけたという。これを受けて9月、マイクロソフトは一般的な対応指針として、著作権等に関する利害対立が起きた場合には損失や訴訟の費用を補償する考えを示していた。