AI企業はコスト負担すべきか、社会の要請は?

 今後、社会の要請として、「AI開発を進める企業は相応のコストを負担し、必要なデータを利用すべきだ」ということになるかもしれない。AI利用の増加に伴い、学習用データの対象、範囲は急速に拡大している。学術論文、写真、絵画、音楽、文学作品、各種の入学・資格試験の問題など実に幅広い。

 23年7月には、米国の著名コメディアンが、メタ・プラットフォームズとオープンAIに損害賠償を求める裁判を起こしてもいる。ニューヨーク・タイムズの提訴と共通するのは、自らがコストをかけて生み出した作品などを無断かつ大量にAI企業に使われれば、ビジネスとして成り立たなくなるという危機感だ。

 コスト負担以外にも大きな懸念がある。訴状は、オープンAIのチャットボットが、実際はニューヨーク・タイムズの報道ではないにもかかわらず、出どころをニューヨーク・タイムズと明記したケースがあったと記している。仮に、事実と異なる情報の発信を報道機関がしたとなると、その報道機関に対する社会の信頼は低下し、死活問題になる。

 他にも事例がある。IT企業が配信するニュースに関してカナダ政府は、検索結果として表示するニュースの利用料を支払うよう法律を定めた。そして23年11月、グーグルはニュース利用の対価を支払うことでカナダ政府と合意した。

 今回のニューヨーク・タイムズの提訴をきっかけに、他の企業や個人も、同様に動き出す可能性はある。つまり、AI企業やIT企業に対して、自ら生み出したコンテンツやデータを利用する際は相応のコスト負担を求めるということだ。となると、今般の双方の主張は、今後のAI利用を取り巻く国際的なルール策定にも大きく影響するだろう。

 経済・社会の変革を勢いづける文明の利器として、これからもジェネラティブAIの進化は加速するはずだ。これに伴い、学習材料としてのテキストデータなどの需要は増える。コスト負担などのルールを、早めに社会全体で作ることが望ましい。その第一歩として、今回の訴訟の動向は24年に注目すべき一大テーマに値する。