今もっとも重要な課題は「中途採用者の定着」

――転職者が活躍するために、周囲はどのようにサポートすればいいのでしょうか?

 私だったら、まず「リアリティ・ショック」や「カルチャー・ショック」が必ず起こる、ということは前もって知らせるでしょう。

 固有のルールや文化、つまづきやすいところについて、最初に知らせてあげることは大事だと思います。

「困った時は連絡してください」と言えば、相手はずいぶん気持ちが楽になるでしょう。

――即戦力であることを期待しすぎるのではなく、きちんとフォローすることが必要だということですね?

 びっくりするぐらい知識やスキルはポータブルじゃない、ということを理解した上で、学び直しが必要だしサポートも必要、と考えた方がいいでしょう。

 つまり、文字どおりの「即戦力」というのに期待しすぎてはいけない。

 中途採用者は、思った以上に手間がかかるのです。

 だから、そこは意識を変える必要があると思います。辞められてしまったら、またコストをかけて採用活動を行わなければなりません。

 日本の企業は新卒を育てることには熱心です。またメディアも、そこをすぐに記事にする。

 しかし、今もっとも重要な課題は「中途採用者の定着」だと思います。中途採用者の定着に日本企業はもっと「投資」をするべきです。

――前職で培われたスキルが活かせないのであれば、企業側にとって中途採用のメリットとは何なのでしょうか?

 中途採用者が入ることは、組織を変えるチャンスでもあります。ただし、それは組織に「馴染む」のが先です。

 中途採用者が組織に馴染んでくると、周囲の人も話を聞いてくれるようになります。

 そうすると、「前の会社ではこうやっていたんだけど、この会社ではやってなくて非効率だね」という話が出て、業務改善につながることもあり得ます。

 中途採用者の側に立つと、転職してから1年目は組織に馴染むためににもそういうことは言うべきではないかもしれません。でも、2年目ぐらいに知らんぷりして「これはどうしてこうなってるんですかね?」と言ってみるといいのではないでしょうか。

 中途採用者が抱く素朴な疑問が「組織の不合理」をあぶり出す、ということは十分にあり得ることだと思います。

 このように、即戦力としてだけでなく、長い目で見て組織に新しい風を吹き込むことも中途採用者がもたらすメリットです。

 しかし、それを急ぎすぎないことも重要です。

 まずは「馴染んでもらいましょう」。そのための仕組み作りが急務です。

(取材・文 間杉俊彦)