5代目の蔵元杜氏の桑山雅行さんは、東京農業大学醸造学科を卒業後、白鶴酒造に入社。その後、実家の蔵の経営状況が悪化し、反対する両親を押し切り1992年に蔵を継いだ。当時の越後杜氏と酒造りを始めて3年後、杜氏が高齢で引退。次の杜氏は、鑑評会用の吟醸酒が造れず雅行さんが担う。直感を働かせ、蒸し米を硬めに仕上げるなど工夫し、苦労の末にできた酒が名古屋国税局の審査で首席、全国新酒鑑評会で金賞を取り周囲を驚かせた。さらに9年連続で金賞受賞を果たすが、人為的に蔵の癖をなくし、鑑評会受けを狙う酒造りに疑問を抱く。土地の水、気候風土を生かしたうま味豊かな酒へ方向転換し、余計な濾過、割り水、火入れをせず、純米の無濾過生原酒を商品化。ラベル代がなく、母親が弁当を新聞紙で包んだことを思い出し、新聞紙で巻いて出荷すると、珍しい見た目と濃醇な味が人気を呼ぶ。「開けたてと、最後との味の変化を楽しんでほしい」と雅行さんは一升瓶を推す。料理との相性や飲む温度、器など楽しさを追求し、おいしい食へ導く闇夜の提灯のような酒を目指す。

新日本酒紀行「長珍」長珍 しんぶんし 山廃純米 70-7 無濾過 生
●長珍酒造・愛知県津島市本町3-62●代表銘柄:長珍 しんぶんし40 純米大吟醸、長珍 しんぶんし50 純米吟醸、長珍 純米酒●杜氏:桑山雅行●主要な米の品種:山田錦、八反錦、五百万石、雄町、亀の尾
新日本酒紀行「長珍」尾張津島天王祭の宵祭の提灯船 Photo by Masaki Ito
新日本酒紀行「長珍」尾張津島天王祭の宵祭の提灯船 Photo by Masaki Ito