実は、鈴木俊宏社長の就任は15年6月であり、今年で10年目を迎える。当初こそカリスマの鈴木修氏と対比するような論調があったものの、実直で真面目な人柄の鈴木俊宏社長は、カリスマ経営からの脱却を目指しチーム経営を進める中で、経営者としての力を着実に付けてきている。
スズキは今期24年3月期に2年連続の最高益となる見通しで、売上高倍増の7兆円規模を目指す「2030年度に向けた成長戦略」も打ち出すなど経営も波に乗る(22年度実績は3.5兆円)。
スズキ入りする前はデンソーで修業、帝王学として「鈴木修流経営」を間近で学びつつ、就任以来経営体制をじっくりと構築してきた鈴木俊宏社長。日本自動車工業会(自工会)で軽自動車代表として副会長にもなり、業界経験も十分だ。いよいよ、この24年からこれまでの蓄積を発揮するタイミングが来たといえるのだ。
すでに、23年末には、軽自動車の主力車種であるハイトワゴン「スペーシア」と世界戦略小型車の「スイフト」のモデルチェンジを発表しており、24年初頭からの販売攻勢に打って出る。また、インドでBEVの生産と販売を行い、世界へEV(電気自動車)を展開する一大拠点とする方向も明確にしている。鈴木修氏のカリスマ経営から脱皮し、鈴木俊宏社長による“積極経営”が本格的に進みそうだ。
鈴木俊宏社長の人柄に触れた
新年の交歓会で会話
鈴木俊宏社長の人柄を語るエピソードがある。
年が明けた1月5日、東京・ホテルオークラで自工会を筆頭とする「自動車5団体賀詞交歓会」が開催された。昨年は豊田章男自工会会長が新型コロナウイルスに感染し欠席で主役不在となったが、今年は豊田会長も参加していた。
今回は、自工会会長がいすゞの片山正則氏に異例の1月1日付でバトンタッチした直後の賀詞交歓会だった。就任した片山新会長の“初お目見え”となり、片山会長のあいさつの後に豊田前会長もあいさつし、5団体のトップと自工会副会長らも勢ぞろいして盛況だった。
パーティー会場の真ん中あたりで各社トップと新年のあいさつを交わしていたら、鈴木俊宏社長と目が会うなり「佃さん、あれはないですから」と言ってきた。それは昨年末の12月26日にダイヤモンド・オンラインでアップしたダイハツ工業の記事(『ダイハツの信頼は地に落ちた!解体的出直しで「スズキとの統合」はあり得るのか?』参照)のことだった。