日本航空(JAL)が発表した新社長人事が話題だ。客室乗務員(CA)出身で女性の社長というのは、いずれもJALにおいて初めてのことだ。ただ、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏が再建したJALであれば、順当な人事といえる。その理由について、稲盛氏を長年追いかけ続け、JALの再生過程も取材をした私の考察をお伝えしたい。(イトモス研究所所長 小倉健一)
JALが社長交代を発表
CA出身・女性のトップは共に初
日本航空(JAL)は、赤坂祐二社長の後任に、客室乗務員(CA)出身の鳥取三津子専務を起用する人事を発表した。就任は4月1日付で鳥取氏は59歳だ。
同社の歴史の中で、CA出身者の社長就任は初で、女性も初だ。2018年4月から社長を務めてきた赤坂氏は代表権のある会長に就任し、植木義晴会長は退任となる。
CAのことをかつて「スチュワーデス」と呼んでいたが、この用語は性別を特定することから、近年ではあまり使用されなくなった。性差別ということもあるだろうが、実際に、男性のCAがたくさん増えてきたこともあるのだろう。性別中立的な表現である「フライト(航空機による移動)アテンダント(サービスを提供する人)、FA」「キャビン(乗り物)アテンダント、CA」と呼ぶのが一般的だ。
インターネットなどで検索すると、日本では「CA」という表記で表されることも多いが、英語圏では「FA」の方が広く使われているようだ。ただし、どちらも「客室乗務員」を指すために使用され、どちらも正しい表現だ。今回は、CAという表記を使ってみる。
鳥取氏は福岡県出身で、長崎県の活水(かっすい)女子短大英文科を経て、1985年に東亜国内航空(後の日本エアシステム〈JAS〉、04年にJALと経営統合)へ入社。CAを長く務め、客室本部長などを経て、現在はグループCCO(最高顧客責任者)を務めている。
鳥取氏は記者会見(1月17日)で、「航空会社の根幹である安全とサービスの二つ。これが私のキャリアそのもの」と自己紹介した。
鳥取氏が入社してCAになった年には、520人が死亡し、単独の航空機事故として最悪となった日航ジャンボ機の墜落事故が起きた。「当時、受けた衝撃は今も大変強く心に刻まれている。安全運航の大切さを次世代に継承していく、そういった強い責任感を今も持っている」「航空会社の根幹である安全運航には今後も揺るがぬ信念を持って、今後もより一層強い思いで取り組みたい」と、安全に対する思いを語った。
また、「先進的で楽しそうな会社だと思ってもらえるように力を尽くしたい」という抱負も述べている。
JALの今回の人事は世間で大きな話題になった。JALという日本を代表する航空会社で、初の女性社長が誕生したというのは、女性の出世には見えない壁があるとされる「ガラスの天井」を突破したことを意味するからだ。役員の一人に、おとなしそうな女性が「世間体」優先で抜擢(ばってき)されるようケースは増えてきたが、社長に就任となると話は変わってくるだろう。
異例ずくめに思える今回の社長人事だが、私には自然なものだと感じられた。JALは10年に経営破綻し、「経営の神様」と呼ばれた稲盛和夫氏によって再建がなされた。その中で、フィロソフィ(経営哲学)に基づく経営と「アメーバ経営」が導入されることになったが、稲盛氏の経営スタイルからすれば、今回のトップ人事は順当といえるからだ。
その理由について、稲盛氏を長年追いかけ続け、JALの再生過程も取材をした私の考察をお伝えしたい。