カインズ、ワークマン、ハンズなど30社を束ねるベイシアグループ。2022年7月には、日本IBM出身の樋口正也さんをトップに、グループ横断のDXカンパニー「ベイシアグループソリューションズ」を設立し、小売業務の効率化、顧客満足度の最大化に取り組んでいる。中でもスーパーの「ベイシア」は、AIを活用したデータ分析によって需要を予測し、欠品によるチャンスロスや廃棄の削減に力を入れる。AIを駆使しているけれど、一番大事なのは「人」らしい。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
「からあげ100個問題」で解く、
スーパーの需要予測はなぜ難しいのか
スーパーは毎日が鮮度との闘いだ。特に惣菜や生鮮食品のほとんどは、1日で売り切らなければならない。しかし、売れ残らないように少なめに並べれば、早い時間に欠品してしまう可能性がある。そういう売り場を見せてしまうと、その日一日の機会損失だけでなく、客離れにつながる恐れがある。競合店のほうが「欲しい商品がちゃんとある」となればなおさらだ。
スーパーの需要予測には、天候や地域のイベント、競合店の値下げ、物価の乱高下など複数の要因が絡む。樋口さんは、その難しさをオリジナルの寓話「唐揚げ100個問題」に例える。
「金曜日は唐揚げが1日に100個売れました。土曜日はいつもお客さまが多い上に快晴で、100個の唐揚げが午前中の2時間で完売してしまいました。以降8時間欠品し、単純計算で400個のチャンスロス。店長は青ざめました。日曜日は打って変わって大雨。お客さまは外に出たくありません。もう18時なのに唐揚げは20個しか売れていませんでした。店長はまた青ざめて、半額シールを貼りました。すると唐揚げは飛ぶように売れ、なんとか100個売り切ることができました」
販売実績上は、金曜日に唐揚げが100個、土曜日も100個、日曜日も100個売れたことになる。だが、同じ100個でも経緯(いきさつ)が全く違う。曜日、天候、時間帯、在庫状況、値引きといった特徴量をいかに機械学習モデルに組み込むかで、需要予測の精度は大きく変わってくる。
樋口さんは、「データサイエンティストは数学者ではダメ」と言う。「よくある間違いは、現場を見ず、数字だけを見て、全く中身の違う100をそのまま教師データとしてしまうこと。せめて土曜日は500にしたり、日曜日は正価20・半額80に分けるなど、意味理解を加えて補正してあげないと、現場で使える需要予測にはならないのです」
大切なのは、データサイエンティストの「技術力」と「現場理解」の掛け算。ベイシアグループが人的資本経営に力を入れる理由は、ここに集約されている。