流動性預金の中にも長期間滞留し、粘着的で、かつ金利感応度が低いと認識できる預金がある。日銀のレポートによると、足元までの10年で国内銀行は貸し出しや運用を長期化し金利リスク量を増加させたが、そのような粘着的な預金が金利リスク量の増加を相殺している。金利リスク量を管理する上でも粘着的な預金が重要であることが分かる。

 今後、銀行が「金利のある世界」でバランスシートの拡大を目指すのなら、粘着性の高い預金の増加が欠かせない。実際、大手銀行は預金集めの強化とともに、預金の粘着性を高めるべく長期の定期預金への誘導策も採っている。

 しかし、オンラインバンキングの広がり、預金金利の引き上げや新NISAの口座獲得競争を受けて、家計が有利な条件を求めて預金をシフトさせている。この状況では、預金の粘着性を今後も高く維持できるとは思えない。

 他方、成長期待による資金需要はまだ不十分だ。住宅ローンなど過当競争から抜け出せない中で、利上げのペースは緩やかであることを考えると、「金利のある世界」で銀行経営がうまくいくと考えるのは楽観的過ぎる。日銀には金融政策の転換に慎重になり過ぎて、銀行の将来を見据えた前向きな対応をも腰折れさせてしまうことがないよう願うばかりだ。

(キヤノングローバル戦略研究所 特別顧問 須田美矢子)