あなたの投資した1000円だけにしぼって、その運命を考えてみましょう。この1000円は公共財に化け、合計3000円相当の利益として社会に還元されます。3000円の4等分は750円ですから、あなたは1000円投資したのに、750円しか回収できません。つまり250円の損です。では誰が儲けたのかというと、それはあなた以外の3人で、それぞれが750円を得したことになります。
この計算から、公共財への投資は、自分にとっては純粋に損であることがわかります。進化学の用語を援用すれば、これは自分は損をして他者を利する行動、すなわち利他行動です。ですから、フリーライダーがはびこる可能性があるのです。公共財ゲームにおけるフリーライダーとは、自らはあまり公共財に投資せず、他人の力によってつくられた公共財の恩恵にあずかるだけの人です。
スイス・チューリヒ大のフェアらは、公共財ゲームを繰り返し行う実験を行いました。その結果は理論の予測通りで、はじめのうちはある程度の金額を公共財に投資していた被験者も、回を重ねるにつれて、その投資額を減少させていきました。このゲームではただ乗りが有利であることを、徐々に理解し始めたのです。
そこでフェアらは、この公共財ゲームに罰の機会が存在したらどうなるだろうかと考え、被験者同士が罰し合えるステージを付加した「罰あり公共財ゲーム」を考案しました。この罰あり公共財ゲームは、最初に公共財ゲームをプレイするところまでは一緒なのですが、ゲームが1回終わるとその度ごとに「罰ステージ」が開始されます。
罰ステージでは、自分のお金のうちのいくらかを実験者に渡し、罰を与えたい相手を指名します。すると、実験者は対象者から罰としてお金をいくらか奪い取ってくれるのです。奪い取った額は罰を与えた側に還元はされず、実験者が回収します。ですから、罰を与えたからといって罰を与えた側に何ら金銭的な利益は生じません。
今まで罰なしの公共財ゲームを繰り返し行っていたところに、罰ありの公共財ゲームという形でゲームを再開すると、被験者の協力レベルは大きく改善しました。つまり、罰が存在することを知っただけで、被験者は罰を受けないよう、公共財への投資額を引き上げたのです。