人の手写真はイメージです Photo:PIXTA

自然界では、子孫繁栄のための協力と、他者が利益にただ乗りするのを防ぐための罰が行われている。高度な文明社会を持つ私たちヒトも、実はほかの生物たちと似たような罰を用いている。私たちは本当に理性的なのだろうか。公共財への投資をシミュレーションした「公共財ゲーム」を通じて、ヒトが他者を罰するメカニズムの一端をのぞいてみる。※本稿は、大槻久『協力と罰の生物学』(岩波科学ライブラリー)の一部を抜粋・編集したものです。

公共財ゲームと罰

 公共財(国やその他公的機関によって提供される一般道路・公園・警察・消防などを指す)は、我々が生活を営むうえで重要です。法制度が整っている現代社会では、お金を稼ぐだけで税金を支払わないでいると法によって処罰されます。

 しかし、法制度がない世の中ではどうでしょうか?

 実験室に被験者を招き、金銭を与えて実験をすることで、人間の経済活動を理解する学問分野を実験経済学とよびます。実験経済学でよく用いられる実験の1つに、この公共財を題材とした「公共財ゲーム」があります。

 公共財ゲームでは複数の被験者、たとえば4人の被験者に、それぞれ初期資産が渡されます。たとえばこの額を1000円としましょう。

 被験者はそれぞれ独立に、この1000円のうちのいくらを公共財のために投資するかを尋ねられます。1000円全額を投資してもよいし、500円を公共財に投資して残りの500円を手元に取っておいてもかまいません。もしくは、1円も投資しないことも可能です。

 たとえば合計2000円の投資額が集まった場合、それを元手にある公共財をつくったら、その3倍である計6000円相当の利益が社会にもたらされると仮定します。実験では、この差額の4000円分は実験を運営している者が追加で支払うこととします。そして、そうやって生じた6000円の利益は、公共財への投資額にかかわらず、被験者4人に均等配分されるものとします。なぜ均等配分かというと、先ほどお話ししたように公共財は基本的に誰でも使えるからです。この例の場合では6000÷4=1500円ずつが被験者に配られます。こうやって配られた配当金と、最初に公共財に投資せずに取っておいた分の総和が、1人の被験者の獲得金額となります。多くの場合、実験後に被験者はこの金額を実際に持ち帰ることができます。

 お金を持ち帰ることができるという動機づけができるので、被験者はより多くの金額を持ち帰ろうと、この実験に真面目に取り組むはずです。4人が初めに1000円ずつをもっていた場合、全員が全額を公共財に投資すると、合計の投資額は4000円、公共財からもたらされる利益はその3倍で1万2000円、それを4人で均等分配できるので、結局それぞれの被験者は3000円を持ち帰ることができ、これは非常にお得な実験に思えてきます。

 しかし、公共財ゲームには裏切りの誘惑が潜んでいるのです。