画像の複製・反転・色の調整…次々と異常が明らかに
その後もさらに多くの異常が明らかになった。
写真の一部は現像後に色が調整されていた。
小保方は画像の複製もおこなっていた。2本目の論文で異なる対象とされている写真のうち2枚は同じ写真で、もう驚きさえないが、片方を裏返しにしただけだった。
一方で、普通はあまりないことだが、世界中の研究室が小保方たちの実験結果を再現しようと躍起になった。
STAP細胞の欠点の1つは、あまりに単純な手法だったために、ほかの研究者が簡単に再現を試みることができたことかもしれない。
ある細胞生物学の教授は、再現実験の経過報告を発表できるサイトを作った。
肯定的な結果や有望な結果は緑色の字で、再現に失敗したものには赤色の字で表示したが、次々に届く報告はほぼすべて赤色だった。
「STAP細胞の物語」あまりに悲しい結末
画像の検証や再現実験を通じて圧力が高まるなか、理研は調査委員会を設置し、画像の改ざんを認定した。
小保方たちは『ネイチャー』に論文の撤回を申請し、2014年6月までに撤回された。小保方は同年12月に理研を退職した。
さらに詳細な調査がおこなわれ、小保方の罪状は画像の改ざんだけではないことが判明した。古い研究の画像を新しいものと偽って添付したり、細胞の成長速度を示すデータを捏造したりしていたのだ。
多能性を示す証拠はどれも、彼女がサンプルに胚性幹細胞(ES細胞)を混入させたために生じていた。
STAP細胞の物語はあまりに悲しい結末を迎えた。
幹細胞の研究で知られる優秀な生物学者で小保方の論文の共著者だった笹井芳樹は、不正行為には直接関与していなかったが、理研の報告書では小保方の結果をダブルチェックしなかった「重大な責任」があると指摘され、2014年8月に理研の建物内で首を吊って自殺したのだ。52歳だった。彼は遺書で、小保方の不正が発覚したことで始まったメディアの騒動に触れていた。
不正な論文が“異常なほど”世界の注目を集めた
これは、不正な論文が異常なほど注目を集めた事例だ。小保方氏の論文は世界でも権威ある『サイエンス』と『ネイチャー』に掲載された。
これほどわかりやすい偽物がこれらの学術誌の審査を通過したことだけでも十分に問題だが、その名声ゆえに論文はすぐに世界の注目を集め、詮索にさらされた。
このような不正が科学界の最高レベルでおこなわれているのであれば、知名度の低い学術誌では、はるかに多くの不正が目立たないようにおこなわれているのだろう。
(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)