エンジニア組織をベンチマークして組織開発をスタート

異質なキャリアのデザイナーが取り組む、事業開発に巻き込まれる組織づくりYoshiyuki Yokoyama
MIXI 執行役員 CDO/デザイン本部 本部長
デザイン事務所に入社した後、フリーランスを経てデザイン会社を起業し、事業売却を経験。その後、フォートラベル(現カカクコム)のデザイン部長、リッチメディア(現シェアリング・ビューティー)の執行役員(デザイン/コンテンツ制作領域)を経て、2019年1月MIXI入社。2021年10月、デザイン本部本部長就任。2023年4月より現職。

──デザイナーやデザイン組織のアップデートには何が必要でしょうか。

 デザインスキル以前に、経営サイドや事業部サイドと関係をつくっていこう、という主体性がなければどうしようもありません。僕は”野良”で生きてきたから、壁にぶち当たって、それをなんとか乗り越えようともがき続けたことで、結果として活動領域が広がりましたが、事業会社で働くデザイナーが置かれる環境では「事業部から発注されたデザインを受注するだけ」というスタイルが固定化しやすい。「そこを人に委ねたままだと、表現できる場が狭まるけどいいの?」という問い掛けは常にしていて、それが響く人はどんどんディレクター的な立場にアサインしています。

──”野良”というのはどういうことですか。

 僕は、大学も最初の就職もデザインとは無関係だったんです。その会社もすぐ辞めちゃって、たまたまデザイン事務所でアルバイトをしたのがデザインとの最初の接点です。ものづくりはもともと好きだったので性に合ったし、こういう場所なら僕でも生きていけそうだなと(笑)。その後、独立して会社を経営したり、複数の企業でデザイン組織の責任者や役員を経験しています。

──大企業のCDOの経歴としては異色ですね。ミクシィにはどういった理由で参加されたのでしょうか。

 一つは大規模組織でデザインする可能性に引かれたことです。僕の入社は2019年。前年に経済産業省が「『デザイン経営』宣言」を発表していて、ちょうどデザインの社会的インパクトが語られ始めていたタイミングでした。会社の成長フェーズとしても、「モンスト(モンスターストライク)」が爆発的に成長した後、その知見をどう横展開して新規事業を広げていくかが全社的な課題になっていた。「デザインがここにどう貢献できるか」というテーマに個人的に興味がありました。

 入社してみると数百人規模でデザイナーが所属しているのに、非常に狭い範囲でしかコミュニケーションをしておらず、規模を十分に生かせていない。もっとワークやナレッジをシェアし、デザイナー同士で刺激を与え合うような状況をつくろうと、Design Ops(デザインオプス)の考え方を参考に試行錯誤しながらデザイン組織の再構築に取り組んできました。

──デザイナーのパフォーマンスを最大化する仕組み作りを本格的に始めたのですね。

 そうですね。デザイン本部は横串組織なのでいろんな事業部のメンバーと一緒にプロダクトを作っていますが、関わり方や役割はバラバラで、デザインの影響を広げたり、チームを先導したりする人を評価する仕組みがなかった。経営側も「デザイン組織はうまくワークしていない」という課題意識を持っていました。具体的にどこが良くないのかを探ると「デザインの実態がよく分からない」という声が多い。そこで、さまざまな角度から「見える化」に取り組みました。

 このとき、お手本にしたのがエンジニア組織(開発本部)です。こちらも横串組織ですが、ナレッジ共有も進んでいたし、経営との足並みもそろっていました。考えてみると、エンジニアリング業界は技術のオープンソース化で発展してきましたが、デザイン業界はセンスや情緒という言葉で価値がブラックボックス化されている。エンジニア組織に学べるところは学ぼうと、人材評価や工程管理、さらにはCTOが経営会議でどんな発言をしているかもリサーチして、デザイン本部に応用できそうなことを実践していきました。