ベストバイの再建で学んだ
経営者のやるべき仕事

佐藤 ハーバードビジネススクールの必修授業では、新幹線の清掃会社、JR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)の事例(連載の過去記事参照)が教えられていますが、ご著書の『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)――「人とパーパス」を本気で大切にする新時代のリーダーシップ』を拝読し、ベストバイの事例はテッセイの事例と似ていると感じました。

ジョリー 私も最初にハーバードビジネススクールの教材『テッセイのトラブル』を読んだときに、ベストバイの改革ととても似ているなと思いました。

 テッセイの教材の中で、印象に残った点が三つあります。

 一つ目は、テッセイの再生を主導した矢部輝夫氏(2005年当時、経営企画部長)が、仕事をする意味を再定義したこと。「テッセイの従業員の存在目的は、単に新幹線を清掃することではなく、お客様に喜んでもらうことだ」と伝えることによって、従業員のやる気を引き出しました。

 二つ目が、「人とのつながり」を改革の中心に置いたこと。美しい制服を着る、お辞儀をする、といったことによって、乗客から注目され、やがて、清掃スタッフと乗客との間につながりが生まれました。そのつながりの中で、乗客から感謝される→やる気になる→さらに感謝される、という正のサイクルが生まれていきました。

 三つ目が、現場に裁量権を与えたことです。これは私の持論ですが、従業員にヒューマン・マジック(全ての人間が持っている魔法のような力)を発揮してもらうためには、従業員を信頼して任せるのが一番です。

 私が特に注目しているのは、矢部氏が従業員の自己変容を促すような改革を次々に実施していった点です。リーダーシップを教えるのにこれほどすばらしい事例はありませんから、自分の授業でもたびたび紹介しています。