倫理はどんな役に立つのか?
3つのアドバンテージ

 倫理と聞くと、やりたいことにブレーキをかけるものという印象を持っている人も多いかもしれませんが、倫理は、足踏み状態を解消して前に進ませるアクセルの役割を果たすこともできるのです。これが第一のアドバンテージです。

 そして、倫理という観点から検討するには、多くのステークホルダーに及ぼす影響を考慮する必要があります。意外なところに影響が出てしまうことが多いデジタル技術ではなおさらです。どんなステークホルダーがいるのか、想像力が試されます。

 そこで最も有効な方法は、ダイバーシティを確保することです。企画や開発部門だけでなく、実際に顧客と相対する営業部門やサポート部門、最終的な意思決定をする経営部門など、多くの立場の人が倫理的検討に加わることで、より幅広い視点からの検討が可能になります。年齢や性別にもダイバーシティが必要なことは言うまでもありません。

 また、ステークホルダーとの意見交換や調整が必要になる場合も多いでしょう。それは、進めようとしている事業や自社の立ち位置を再検討する機会にもできます。

 倫理を考えることは、多様な視点を育み、自社のパーパスを見直す機会も提供してくれるのです。この点が、第二のアドバンテージといえます。

 そして、第三のアドバンテージは、より根源的なものです。

 倫理は法やガイドラインよりも広い概念です。より正確に言えば、倫理とは、その社会の多くの人に共有される社会規範であり、法はその最低限度の規範を守らせるための強制手段です。

 日本人は、法を守ることは得意ですし、さらに言うならば、根拠がなくても他人に合わせる、いわゆる「空気を読む」ことにも長けています。しかし、法の基盤となる倫理については、深く考えない傾向が強いのではないでしょうか。

 社会規範である倫理は、「空気」によって醸成されるものではなく、社会によって、すなわち人々の考えと、考えの違う人同士の対話によって生み出されます。誰もが自らの意見を出し合い、話し合う中で定まってくるものなのです。そして社会的合意を得た倫理は、人々の行動規範となります。

 今、世界には、環境問題、サーキュラーエコノミーへの移行、人権問題、貧困問題など、多くの社会的課題が山積しています。デジタル化に伴って生じる可能性のある弊害も、その一つです。政府だけでなく、企業も、これらの解決にいかに貢献するかが問われる時代になっています。

 そしてこれらを解決しようとする意志の根底には倫理があることは容易に理解できると思います。

 倫理を考えることは、社会的課題に気付き、解決策を考える糸口を与えてくれるのです。そしてその解決策は、まさしく未来の事業の種となります。倫理を抜きにしてビジネスは考えられない時代がやってきつつあります。

 上の図は、倫理のアドバンテージをまとめてみたものです。倫理は氷山の水面下の部分に位置付けられています。本書の主題である倫理は見えにくいものですが、社会において大きな役割を果たすものでもあります。

 倫理は、新たな競争力の源泉として活用できるのです。

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