どうして、フランスのワインは内外価格差があんなにあるのに、怒られないのでしょうか

 トリュフやキャビアやワインに学ぶ必要があります。なぜなら、世界中の食通は、喜んで内外価格差の半端なく高い製品を買って、食べているからです。ブランド力のあるものは、必然的に高くなる。高くても売れるのです。

 これは僕もそうでしたが、日本よりも高い値段で海外に売ろうとすると、「どうしてそんなことをするのか」と言われると思います。そのときには、こう返せばいいのです。

「どうして、フランスのワインは内外価格差があんなにあるのに、怒られないのでしょうか」

日本一のマグロ漁場といわれる大間のマグロ漁師の平均世帯年収は7000万円。後継者不足問題はまったく存在していない

 もうひとつ面白い例をあげましょう。僕がお店を持っている香港では、日本酒の値段は日本の一般小売りの数倍、レストラン価格になると数十倍の価格で売られていたりします。日本人は取り過ぎだといいます。しかし、あれだけの労力がかかるお酒の一升瓶の価格が安すぎるとは香港では誰も思いません。

 僕はブランド価値をつけることで、結果的には国内の価格も上げられるのではないか、と思っています。

 お世話になっている日本一の仲卸のマグロ屋こと「やま幸」の山口幸隆社長に伺うと、日本一のマグロ漁場といわれる大間のマグロ漁師の平均世帯年収は7000万円。後継者不足問題はまったく存在していないとのことです。

 しかし、とあるマグロ漁場では後継者不足問題が存在している。ここのマグロ漁師の平均世帯年収は400万円。もうおわかりでしょう。つけ麺もみんなが真似して安くなれば、お店そのものがなくなる。日本酒も安くていいものを求めつづければ、酒造りそのものがなくなるリスクがあるのです。

「今がチャンス」と断言できる理由

 僕は、日本の食材はもっとブランディングすれば、高く売れるようになると思っています。和牛以外にも、気になる高級食材はたくさんあるはずです。

 魚、野菜、果物、日本酒、焼酎、調味料……。熊本のスイカが中東で、あるいは福岡のイチゴが香港で飛ぶように売れたと聞いたことがありますが、しっかりブランディングすれば、フランスの地域ブランドのような価値を作れるかもしれない。

 もちろん、大量に安く、というビジネスもあるでしょう。でも、それは大手の食品会社に任せればいいのです。利幅が薄くても、物量がある会社はやっていけるわけですから。

 今はチャンスです。なぜなら、日本がデスティネーションカントリーとしても注目を浴びており、食事においても和食全般がモードで、ブランドになってきて、高い評価を得てきているから。

 そして、実のところ日本人自体が、ようやく和食を理解し始めた、ともいえるのではないでしょうか。先の「大間のマグロがいい」なんて日本人が言い出したのは、最近のことです。

 まだまだ黎明期だということです。実際、和牛にしても、僕が扱っているような和牛を食べたことがある人は、おそらく日本でもほとんどいないのではないかと思います。まだまだ日本人自体が、日本の食材を知らないのです。

 だから、チャンスがある。ニッチな高級食材に辿り着くためにも、食に対して圧倒的な興味を持つことです。食べることも大事、そして料理を作ることも大事。ちょっとでもいいから作ってみる。

 そういう取り組みが、きっとヒントを生んでくれると思います。

 もとより一次産業そのものが、大きなビジネスチャンスになると思っています。この業界に入ったときに、いろいろ感じたことがあったからです。

 端的に言えば、これからドラスティックに変わっていくだろう、ということ。なぜなら、遅れているものがたくさんあるからです。例えば、IT化はその象徴です。まったく遅れているといっていい。

 人材もまったく足りていません。金融のように、優秀な人材が大量に入ってきている業界かといえば、そうとはいえない。ITや金融が産業として大きく成長したのは、やはり優秀な人材が大量に入っていったからだと思うのです。一次産業革命、それがまさしく今これから始まるのです。

 いろんな才能が入ってきたら、大きく変わっていくでしょう。しかも、世界の人間の叡智が入ってきたら、もっと変わる。どの食材から変わってくるかはわかりません。キノコでも変わるかもしれないし、醤油でも日本酒でも、ニンジンでもコーヒーでも変わるかもしれない。「世界一のニンジンを作ろう」なんてプロジェクトを誰かが「この指とまれ!」したら、一瞬にして変わるかもしれない。

 ひとついい例ができると、この5年くらいで一気に状況が変わるかもしれません。

 一方で、日本の一次産業の最先端の現場で行われていることは、世界的なレベルです。超最先端といっていい。だからこそ、世界に紹介したいのです。

 大手企業がやらないなら、一人でやったらいい。優秀な生産者とパートナーシップを組んで世界に出て行けばいい。大きな可能性が潜んでいると思います。

(本原稿は、浜田寿人著ウルトラ・ニッチを抜粋、編集したものです)