能登半島地震の被災地で「大型フェリー」が大歓迎される理由PFI船舶として災害派遣に投入されている「ナッチャンWorld」 Photo:PIXTA

フェリー会社OBの予備自衛官を招集し
72時間内に出港準備を整えるPFI船舶

 かつてナッチャンWorldは津軽海峡フェリー(就航時は東日本フェリー)が、はくおうは新日本海フェリーが所有していた(当時の名称は「すずらん」)。現在は、1999年に施行されたPFI法に基づいて設立された特別目的会社(新日本海フェリー、津軽海峡フェリー、双日、日本通運など8社が出資)に所有が移っている。

 PFI船舶は、防衛省から災害救援などの依頼を受け次第、フェリー会社のOBからなる予備自衛官を招集し、装備品を積み込み、72時間内に出港の準備を整えるという。なお、実際の操船は、ナッチャンWorldを東洋マリーンサービスが、はくおうをゆたかシッピング(どちらもかつての所有者と同系列の会社)が担う。

 2隻はもともと、防衛省のチャーター船として稼働していた実績がある。それが、PFI船舶にのっとった運用となった背景はこうだ。

 防衛省は中型クラスの輸送艦を保有しているが、被災者がくつろげる快適な空間や、何十台ものトラックを積載するようなスペースはない。被災者支援に特化した船舶の必要性は叫ばれているものの、自前で建造すると数百億円かかる。

 一方の民間フェリー会社も、有事の度に船や船員を貸し出していては本来の物流を担う役割を果たせない。ナッチャンWorldとはくおう(すずらん)は、どちらも定期運航から退いていたものの、普段は動かないのに港湾利用料や維持費がかかるフェリーを、有事のために保有しつづける訳にもいかない。

 こうして、民間の力を借りたい防衛省と、有事に貢献したい一方で引退した船を維持する余裕がないフェリー会社双方の意向がマッチして、PFI船舶ができたといえるだろう。

 ただし、この2隻は老朽化が進んでいるため、今後は後継船が必要だ。状況によっては、新日本海フェリー「はまなす」(2004年就航)が候補に挙がるかもしれない。