「幸せ」というのは
明日を楽しみにしながら寝られること
鵜野 見ていて楽しそうな人や組織でなければ、皆、一緒になって世の中を変えていこうだなんて思いません。
全共闘は、少なくとも最初の頃は、皆を巻き込むお祭りのようなエネルギーがありました。
田原 最初の頃はたしかにね、アナーキーなところもあって、世の中を変えてやろうという学生たちのエネルギーがすごかった。そのうち下火になり、内ゲバが起こり、結局、連合赤軍の事件を起こすことになってしまったけれど。
鵜野 今の野党も残念ながらどこにもエネルギーはありませんね。たったひとつのことで対立しておのおのが孤立するのではなく、1点でも共通点を見つけ、共にあろうとしなければならないと思います。
テレビ局でも、現場が一生懸命おもしろいことをやろうとしても、法務部がだめといえば止められて、自分の責任だけでは仕事ができずに意欲をなくしてしまう。
田原 お祭りのように物事を楽しみ、そのエネルギーをもってして、常識や伝統をぶち壊す。来館者にそのきっかけを与えたいという思いが感じられます。1回しかない人生なので、楽しかったといえる人生がもちろんいいはずですからね。
鵜野 たとえ、死ぬ前日でも「明日が楽しみ」と言いたい。明日を楽しみにしながら今晩、寝ることができる。幸せというのはそれがすべてだと思うんです。小さなことでいいんです。「明日、遠足で楽しみだな」「久しぶりに仲間と会うの楽しみだな」とか。そういうことが一生続けばいい。
お金もうけではないんですよね。「資産が何千億円あります」という人がいたりすると、そんなお金を一体何に使うんだろう、死ぬ前日も明日を楽しみにできるのだろうか、と思います。
田原 楽しいことが見つからないまま、一生を終えてしまう人もいるのではと思います。特に今の高齢者は、仕事などを引退しても結局、やりたいことが見つからない人が多いと聞きます。「明日が楽しみ」と思えるようになるにはどうすればいいのでしょう。
鵜野 小さいことでもいいから、やりたいこと、できることを、少しずつでもしてみることだと思います。
X(旧Twitter)で引きこもりの人の相談に乗ることもあるのですが、毎日が楽しくないと言っていたある人が、草花の種をまいてみたのです。
すると、明日かな、明後日かな、と、花の芽が出るのが楽しみになった。毎日、植物の成長を見るのが楽しみになった、と。
どんなささいなことからでも、楽しみを見つけることはできるんですよ。もし可能であれば、ぜひまぼろし博覧会に来て楽しいことを見つけてほしい。来館者は若い人が多いですが、年配者もたくさん来てくださっています。
田原 まぼろし博覧会をやって良かったと感じていることは何ですか?
鵜野 出版は売れるかどうかの結果だけですが、まぼろし博覧会でセーラちゃんとして来館者一人ひとりと話していると、「楽しかった!」とか「元気になりました!」と言ってくれるんですよ。帰り際に車の窓から「セーラちゃん!」と声をかけてくれる人もいてうれしいですね。
来館者が楽しんでいるところ、喜んでくれているところに、直接触れることができる。結果だけでなく、リアルタイムで、人と人とのコミュニケーションを楽しむことができる。
「生きづらい」「日常がつまらない」と、未来に対する希望が持てない中で、展示を見て、エネルギーをもらって帰ってくれれば、こんなうれしいことはありません。本当にそれだけでやりがいがある。開館時に借りた借金の返済は大変ですが(笑)、何とか食べていければそれで十分です。
田原 未来は人が与えてくれるものではなく、自分でつくるものですよね。社会や世間体はいったん、置いて、まずは自分の楽しいこと、自分の未来を自分でつくる。そのきっかけを鵜野さんは与え続けている。
鵜野 未来が決まっていたら楽しくないですからね。自分でつくるから楽しいんですよ。
田原 それにしても、これほどさまざまなジャンルのものや、際どいものを多く展示して、「こんなものを展示するとは何事か!」というふうにたたかれたり、脅されたりすることはないんですか。
鵜野 まったくないですね。見に来てくれた人も、SNSでつながってくれる人も、それで絡んでくる人も含めて、皆、友だちです。怖そうな人も来ますけれど、帰るときには「ありがとう、楽しかった」と言って帰られます(笑)。
田原 展示に圧倒されるんでしょうね。不気味なもの、グロテスクなもの、不思議なもの――。いろいろとあるけれど、なぜかどれも暗くない。楽しい。
鵜野 何をするにも楽しくやらないといけませんからね。反省することも大事かもしれませんが、済んだことをずっと考えていても仕方ないので。
田原 今後はどう展開されるのですか。
鵜野 今後を考えると、義務になってつまらなくなってしまうので、今思ったことをやるだけです。義務で生きていたら、機械と同じです。楽しくない。動物だって、起きたい時に起きて、寝たいときに寝ます。私は「今できることの中で何をやるか」しか興味がないんです。良くも悪くも計画性がないんですよ(笑)。
田原 それが素晴らしいですね。平日は出版社で、土日はまぼろし博覧会では、体がもたないのではないですか?
鵜野 何もしない日というのは、去年は1年に1日ぐらいでしたが、何かしているほうが楽しいので、疲れないんです。ここで来館者の皆さんがやりたいことを見つけるきっかけができればいい。
特定の趣味の人だけが楽しいというのはつまらない。皆が何か楽しみを見つけられればと思っています。倒れるまでやり続けようと思っています。
田原 今日、見切れなかった展示を見に、またうかがいますね。
鵜野 展示はつねに変わり続けます。何度でもぜひ、いらしてください。