上場後のビジョンが
見えない東京メトロ
ただ外部から見た東京メトロは、あまり変わったように思えない。3月25日発表の「2024年度事業計画」は、安全対策に309億円、旅客サービスに362億円など、計1146億円の設備投資予算を策定。うち約3割(約350億円)を新規不動産取得・開発、自動運転、技術開発などの「成長投資」に使うとしている。
個別の項目には「DX」や「ESG」などはやりのワードは並ぶが、結局はキャッシュフローの多くを鉄道の機能強化に振り向けており、関連事業(都市・生活創造事業)への投資は1割強。物件は変わってもメニュー自体は代わり映えしない。これでは上場しても何かが変わるとは思えない。
だが、それも仕方のない話なのかもしれない。メトロ(営団)にとって、上場とは国策として決まった話であり、上場自体が目的であり目標だった。もちろん社会的な信用が高まるとか、株式市場から資金調達が可能になるとか、それらしい目的を立てることはできるのだが、上場しなければ困る理由はなく、その先の明確なビジョンが見えない。
都心の地下を走る地下鉄はビジネスの可能性が無限と思われがちだ。しかし、莫大な建設費がかかる地下鉄は、なるべく自社用地を持たず、設備は必要最小限で建設するため、自由に使える資産は実は少ない。
変電所など業務用地に施設を一体化したビルの建設は、可能な範囲で終わっている。新規にビルを建てるとなると、新規の土地取得や周辺地権者との連携が不可欠なので、鉄道事業者としてのアドバンテージはほぼない。
「Echika」などの駅構内開発も、都合のいいスペースはほぼ使い切っており、また、地下を掘って新規のスペースを作るなどということは到底、採算が合わない。地上に豊富な土地を保有するJRとは条件が全く異なるのである。
これは筆者が在籍していた頃から感じていたことであり、実際に社内の一部にもそういう空気は漂っていた。上場という「ゴール」が見えてきた今、東京メトロはどのような会社になり、どのような事業を展開したいのか、投資家ならずともビジョンを問う声はますます高まることだろう。