東日本大震災時の福島原発で
現場責任者が下した英断

 さすがにこのままではまずいと考えた副総理の彭徳懐は、毛沢東に私信の形で政策転換を求めた。

 毛沢東は怒って、彭徳懐を失脚させる。しかし毛沢東も国家主席を辞め、その後を劉少奇が継ぎ、大幅な政策転換によって国家の崩壊だけは免れた。
 
 さて、恐ろしいのはこのあとである。

 毛沢東は失脚した彭徳懐がガンに冒された時、一切の治療、一切の鎮痛剤も与えずに監禁先で見殺しにした。その後毛沢東が起こした文化大革命という、文化の名に値しない、「大衆を私兵として自分に歯向かう党幹部を吊し上げ、拷問し、時には殺す蛮行」のターゲットとして、当時国家主席であった劉少奇とその妻が狙われた。劉少奇はやはり監禁され、糞尿の始末もされない中で悶死することになる。

 そんな中国での悲惨な結末を知りながらしかし、誤ったノルマ、現場無視の無茶な命令が出された時、現場はどう対応すべきなのか考えねばなるまい。

 上からの命令が現場の状況を反映していないという意味で、東日本大震災時の福島原発がその一例になるかもしれない。

 福島原発事故の折、首相は民主党(当時)の菅直人。福島原発の現場は彼の直接指示によって混乱が起きていたことが、「福島原発事故独立検証委員会」による報告書で明らかにされている。

 現状を理解しない、ただ大声で東電の幹部を怒鳴りつけ、マイクロマネジメントばかりやる首相に引きずられる政権や東電の幹部たち。

 民主党政権は福島原発1号機への海水注入を止めるよう命令するが、福島原発で現場責任者だった吉田昌郎所長は、自己の責任で海水注入を継続。それゆえに被害が拡大しなかったことは広く知られている(無論、この時点でとんでもない被害が発生してはいたが)。

 吉田氏はすでに故人だが、報告書は「(吉田氏が)上位機関の命令に従わないのは問題がある」という、誠に杓子定規な批判を加えている。

 あのとき、報告書にもあるように「稚拙で泥縄的な危機管理」をやっていた上部機関(特に首相官邸)に、現場は従うべきであったのか?