歴史には数々の「失敗」がある。この真実を読み解くことで、時を経て繰り返される現代の失敗に向き合う連載『歴史失敗学』。第3回は、“ノルマ”によって人々を苦しめた各国の指導者たちと、引き起こされた悲劇の連鎖を取り上げる。(作家・歴史研究家 瀧澤 中)
スターリンのとんでもない「ノルマ」
まともな販売(生産・開発)目標と劣悪なノルマとの違いは、社員が違法行為を行わなければ、あるいは良識を捨てなければ達成できないような成果を強要するか否か、ということであろう。
悪しきノルマは、数々の悲劇を生む。それは、歴史を見れば一目瞭然である。
ノルマ――ロシア語で「基準」「規則」を意味する言葉だが、実態はソ連による強制労働の現場で使われた無茶な目標であった。戦後、違法にシベリアに抑留され強制労働させられていた日本人が、帰国後に日本で伝えたらしい。
ロシアは1917年の革命後、共産主義国家となってから現実を無視した「ノルマ大国」になった。中でもスターリンが1928年に開始した5カ年計画はひどいものであった。
スターリンは、急激な工業近代化を進めるため海外から機械類を買い入れた。買う金はどこから出たのか。主に農産品を輸出して都合した。その結果とんでもないことが起きたのである。
たとえば当時、ソ連の勢力圏内にあったウクライナでの大飢饉「ホロドモール」。農民たちは命じられたノルマを果たそうと必死に働くが、スターリンは農民たちが食べる分の食料まで徴収し、輸出させ、工業化のための機械を買い込んだ。
ウクライナの農民たちは次々に餓死していった。その数400万人から、多いもので1500万人が犠牲になったとも言われる。
もちろんウクライナ人は怒り、のちのドイツとソ連の戦争(1941〜1945年)では、ウクライナがドイツに肩入れした遠因とも言われている。