憧れの職業と思っても、マーケターやコンサルタントといった名称ではなく、「その職業は何をすることなのかを自分なりに言語化するといい」。

為末大氏が就活生に伝えたい「諦める力」、人の限界を作る“思い込み”を壊していこう為末大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダルを獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者。現在は執筆活動や講演、身体に関わるプロジェクトを行う。Deportare Partners 代表。『諦める力』(小学館)、『熟達論』(新潮社)など著書多数

 マーケターは、ある人にとっては「多くの人を幸せにする仕事」かもしれないし、別の人にとっては「統計分析をする仕事」かもしれない。「やりたいことを『因数分解』し、要素に還元していくと、既成概念に縛られず、やりたいことの本質に迫れるかもしれない」

 就活では業界別に志望するのが一般的だが、業界の違いより、社風や企業文化、働き方(職人気質の集団か、チームワーク重視か、など)の方が、自分に合うかどうかを考えやすいのではないか、とも為末さんは提言する。

 為末さん自身は「人の思い込みが壊れる瞬間を作りたい」と思って人生を歩んでいる。「思い込みこそが、人の可能性や自由を制限し、人々を分断する元凶」と考えるからだ。

 思い込みの破壊を、身をもって証明しようとして、ハードル走を選択し、日本人でも陸上競技で世界に通用することを示した。書籍、YouTube、SNSなどを通じて、さまざまな知見や自身の洞察を発信しているが、それもまた、いろいろな考え方を伝えることで既成概念を打破したいからだ。

真剣に諦めることによって
曇った世界が晴れてくる

 例えば現在、競技用義足開発のプロジェクトに積極的に関わっているが、「義足でより速く走れれば、人間の限界についての固定観念は壊される」との思いからで、その実現はもう間もなくのところまで来ている。

為末大氏が就活生に伝えたい「諦める力」、人の限界を作る“思い込み”を壊していこう『諦める力』(小学館) 為末大著

「どんな職業や活動を通じても自分のやりたいことはできる、ということではないだろうか」。その時々の職業は、人生の目的のための手段でしかなく、手段がどんな形でも、目的が遂げられれば満足でき、幸せでいられる。就活は「仮決め」と考えて臨めば、結果を気にして萎縮することなく、全力を出すことができる。

 為末さんの著書『諦める力』は、「諦めるとは、真理を明らかにしてよく見極める」という意味の説明から始まり、「何かを真剣に諦めることによって、『他人の評価』や『自分の願望』で曇った世界が晴れて、見えなかったものが見えてくる」という趣旨の言葉で締められている。