「世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面しています」――昨年9月の国連総会の一般討論演説で、岸田首相は「イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていてはこれらの課題に対応できない」と述べた。長引くウクライナ戦争、秋に予定されるアメリカ大統領選など、新たな勢力均衡線を見据え、日本は何を意識すべきか。今回は、“知の巨人”といわれる佐藤優氏がいま話題の各界プロフェッショナル12人と対話した最新刊『天才たちのインテリジェンス』(ポプラ社)より抜粋いたします。
第一の焦点はアメリカ大統領選
2024年は激動の年になる。
第1の焦点は11月に行われるアメリカ大統領選挙だ。「もしトラ」(もしトランプが大統領になったら)という言葉をちらほら見かけるようになったが、ドナルド・トランプ氏が大統領に当選したら、アメリカの内外政に大きな変化が生じる。「もしトラ」を意識して私は本書を作った。
ここだけの話だが、私はトランプ氏が大統領に当選したほうが、世界は安定すると考えている。バイデン現大統領は、民主主義VS権威主義(もしくは独裁)という価値観外交を展開している。アメリカ人はこの価値観が普遍的であると考えているが、私はそう思わない。
フランスの人口統計学者で歴史学者のエマニュエル・トッド氏が繰り返し強調しているように、自由、民主主義、市場経済というアメリカ人が普遍的と考える価値観は、アングロ・サクソンの家族類型並びに文化と結び付いた特殊なものだからだ。アメリカ人やイギリス人がそのような価値観を信奉することは自由だ。しかし、日本人やドイツ人、ロシア人、中国人などは、自らの文化に基づいた価値観を堂々と主張すべきだ。各国は他国の主権、伝統、文化を尊重する棲み分け外交を展開したほうがいい。