トランプ氏はウクライナ戦争を止められるのか

 トランプ氏は自分が当選したらウクライナ戦争を止めると宣言している。賢明な方針だと思う。外務省国際法局長、インドネシア大使をつとめた石井正文氏はこう述べている。「ウクライナの戦地で多くの命が失われている状況は、昨今、日本政府が唱えている人間の尊厳にも反しています。これ以上、戦争を続けるのはやり過ぎでしょう。欧米には『支援疲れ』が広がり、米大統領選で共和党のトランプ前大統領は『自分が大統領になればウクライナ戦争を止める』と明言しています」(2024年1月20日「朝日新聞デジタル」)

「トランプ氏が返り咲くかはまだわかりませんが、いずれにせよ欧米の支援が細っていけばウクライナは戦えなくなります。こうした事態を想定し、停戦を模索すべきタイミングです。ロシアが侵略で得をした形にならないような停戦条件を各国が話し合い、共通認識を築くことが必要です」(同上)

 石井氏は、「ウクライナの戦地で多くの命が失われている状況は、昨今、日本政府が唱えている人間の尊厳にも反しています」と述べているが、これは日本外交の方針転換を踏まえた上での発言だ。2023年9月19日、ニューヨークの第78回国連総会において岸田文雄首相が一般討論演説を行った。その内容が実に興味深い。

新たな勢力均衡線は日本に不利である

「議長、世界は、気候変動、感染症、法の支配への挑戦など、複雑で複合的な課題に直面しています。各国の協力が、かつてなく重要となっている今、イデオロギーや価値観で国際社会が分断されていては、これらの課題に対応できません。

 我々は、人間の命、尊厳が最も重要であるとの原点に立ち返るべきです。我々が目指すべきは、脆弱な人々も安全・安心に住める世界、すなわち、人間の尊厳が守られる世界なのです。

 国際社会が複合的危機に直面し、その中で分断を深める今、人類全体で語れる共通の言葉が必要です。人間の尊厳に改めて光を当てることによって、国際社会が体制や価値観の違いを乗り越えて、人間中心の国際協力を着実に進めていけるのではないでしょうか」(2023年9月19日、「首相官邸」HP)