それまで使っていた男爵に比べてメークインのほうが窪みが少ないし、Lサイズであれば同じ総重量に対して個数を減らせ、その分、表面積が少なくなるため、皮むき作業は短時間で済む。

 また、年間を通して価格が安定している冷凍じゃがいもを使用食材に加え、生のじゃがいもが高い時期や土日の人手不足なときには、皮がむかれた状態のこの冷凍のものを使うようにした。

 相手を変えたければ、まず自分を変えるべきというではないか。それに倣ったわけだ。

みょうがはどこまでむけば正解か
下処理作業には珍事が付きもの

 さて、じゃがいものほかにも下処理作業には珍事がたくさんあった。あるとき、季節感を出すために豚しゃぶの薬味としてみょうがを購入したことがある。献立カードには細かく刻むと書いておいたが、炊場から電話がかかってきた。

「すみません。みょうがはどこまでむくんですか?」と聞かれ、間髪入れずに、「むきません!そんなことしたらなくなります!」と大声で叫んでしまった。

 本当か嘘か知らないが、サルにらっきょうを与えるとむき続けてしまい、最後に食べるところがなくなって怒ってしまうとか……。

 ここでは受刑者が怒るというより、困惑するというか途方に暮れてしまうだろう。そんな様子が想像できて電話を切ったあと、笑いころげてしまった。

 皮むき事件はほかにもある。さつまいもの皮をむく場合は、厚くむいたほうが色もよく口当たりもいい。しかし、刑務所でそんな心遣いは無用だ。

 だが、彼らがさつまいもの皮をむいているのを見ていると、じゃがいも同様にむきすぎている。なぜむきすぎるのかというと、さつまいもが変色しやすいからだ。

 さつまいもを手に取り、皮をむきながら回転させ、一周終えると、さっきむいたはずなのに色が悪い。

 そこでまた一周とむいているうちにどんどん小さくなる。私からすると、何やってんだ?という感じだが、彼らにとっては変色が傷んで見える。結果、何周もむいてしまうのだ。

 そこで、今度は基本的に皮付きのまま調理してもらうことにした。そのほうが無駄に減らないし、作業も簡略化できるし、一石二鳥ではないか。いや、皮に多く含まれている繊維質も取れるから一石三鳥かもしれない。