さて、バッハは1685年に神聖ローマ帝国時代のザクセン(現在のドイツ)に生まれました。音楽一家のバッハ家では日常に音楽があり、演奏する人たちに囲まれて育ち、才能を開花させていきます。

 卓越したオルガン奏者になり、作曲をするようになり生涯1,000曲に及ぶ作品を残しています。

 バッハがクラシック音楽の大きな礎となったのは、その作曲法にあります。これまでヨーロッパで伝統的に継承されてきた教会で奏でる音楽はありましたが、バッハはそれを発展させます。

 大きなもののひとつに対位法という理論があります。かなり難しい理論まで展開できるのでここではざっくりお伝えしますと、ひとつの旋律(メロディ)が進行しながら、同時に別の旋律が進行し、互いを邪魔することなく独立しながらも調和できるという方法です。

 例えば、「かえるの歌」の輪唱を思い出してください。♪かえるのうたが~♪と最初に歌う人の後で、2番目の歌の人が入ります。最初の人のメロディと、2番目の人のメロディはもちろんズレているのですが、それでも歌として実に調和していることに気が付くでしょう。

 これは輪唱で同じメロディがズレているだけなのでわかりやすいですが、バッハはそれにさらに複雑な作法を生み出していきます。フーガという言葉は聞いたことがあるかもしれません。バッハの曲名によく見られる用語です。これは対位法の一種です。バッハはこのフーガの手法を完成させ、芸術的にも高く評価されるようになりました。

 このフーガで最も有名なもののひとつに「トッカータとフーガ・ニ短調BWV.565」があります。残念ながらJ.S.バッハの作品かどうか実は明確な証拠がない作品のひとつではありますが、非常に完成度も格調も高い名曲です。間違いなく絶対に一度は聴いたことがあるはずです。

 ただ、この曲が日本で有名になったのは、嘉門タツオさんが「鼻から牛乳」という歌詞をこの偉大な曲につけてしまったからでもあります。全国の小学生が給食のたびにこのフレーズを歌い、誰も彼もこれを知っている、というような時代がありました。

 私もこの呪縛にいまだに囚われているひとりです。荘厳なオルガン演奏を聴いている際に、サングラスでギターをかき鳴らす映像を払拭することが難しい。こんな哀れな私を音楽の父バッハは、笑って許してくれるでしょうか。