ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。

「リスクをとって成功する人」と「大火傷を負う人」を分ける、決定的な「考え方」の違いとは?写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「失敗を恐れるな」は本当か?

「失敗」とどう向き合うか?
 これも、リーダーにとっては重要な課題です。

 当たり前のことですが、経営とは、ヒト・モノ・カネなどの「リソース」を投資して、何らかの「価値」を生み出す活動のことです。そして、投入した「リソース」を超える「リターン(利益)」を得て、それを再投資することで新たな「価値」を生み出す。この循環運動のことを経営と呼ぶのだと思います。

 つまり、投資に見合う「価値」を生むことに失敗したり、投資に見合う「リターン(利益)」を得ることに失敗したりすることが続けば、いずれ経営は立ち行かなくなるということ。だから、リーダーが「失敗」を恐れるのは当然のことです。

 そもそも、お客さまに喜んでいただくのは、決して簡単なことではありません。お客さまの気持ちを深く思いやって、工夫に工夫を重ねなければ、世の中に喜んでいただける「価値」を提供することなどできないでしょう。そういう意味では、社員・部下に対して、安易に「失敗を恐れるな」などと言うのは、無責任と言うべきなのかもしれません。

 とはいえ、「失敗」を過剰に恐れると、深刻な弊害を生み出すでしょう。
 なぜなら、これも当たり前のことですが、あらゆるプロジェクトは結局のところ「やってみなければ、どうなるかわからない」からです。

 もちろん、事前にあらゆる角度から検証して、「成功確率」を見極めるとともに、それを高める努力をすることは不可欠ですが、お客さまに喜んでいただけるかどうか(「価値」を提供できるかどうか)、その「人間心理」を100%予測することなど不可能。完全にリスクを避けることなどできっこないのです。

 にもかかわらず、「失敗」を過剰に恐れると、何もできなくなってしまいます。極端なことを言えば、「何もやらないのが正解」という経営になりかねないのです。要するに「投資」をしないわけですから、当然のことながら「価値」も「リターン」も得られないというわけです。

リーダーの「本質的な仕事」とは何か?

 だから、僕はこう考えています。
 リーダーの本質的な仕事とは「リスクを取る」ことである、と。

 ただし、闇雲に「リスクを取る」のは、“ただのバカ”でしょう。
 だから、リーダーに求められるのは、「どの範囲のリスクなら許容できるか」を明確にもっておくことではないでしょうか。そのために、僕が意識しているのは、次の3つです。

「リスクをとって成功する人」と「大火傷を負う人」を分ける、決定的な「考え方」の違いとは?立花陽三(たちばな・ようぞう)
1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。