第一に、そのプロジェクトにどのくらいの「成功確率」があるかということ。当たり前のことですが、どう考えても「成功」しなさそうな企画に、限りある「リソース」を投入するわけにはいきません。

 だから、部下から提案があったら、僕はさまざまな観点から、かなり厳しいツッコミを入れるようにしていました。おそらく、すんなり「GOサイン」を出したのは2~3割ほどで、大半は突き返して再検討を求めました。もちろん、それは嫌がらせをしたかったわけではなく、「成功確率」をできる限り高めるためです。

 とはいえ、100%の「成功確率」などということは原理的にあり得ませんから、感覚的ではありますが、50~70%の「成功確率」だと思えたら、僕は「GOサイン」を出すようにしていました。

 第二に、「失敗」したときのリスクの程度です。
 失敗したときに、最大でどの程度の「損失」になるのかを概算したうえで、それが経営的に許容できるかどうかを判断。「成功したときのリターン」と「失敗したときのロス(損失)」を比較して、そのバランスが適正かどうかという観点も重要でしょう。ともあれ、想定される「損失」が許容できる範囲内にあり、ある程度の「成功確率」が見込まれるのであれば、「GOサイン」を出してよいと判断できるわけです。

 第三に、世の中の「常識」「良識」に反しないかということです。
 どんなに「成功確率」が高くて、失敗したときの「損失」も許容できるとしても、世の中の「常識」「良識」に反することは絶対にしてはなりません。

 自社にとって「リターン」があるからと言って、「お客さまのためにならない」ことをしてはならないのは当然ですが、たとえ「お客さまのためになる」ことであっても、なんらかの「コンプライアンス」に抵触したり、世の中の「常識」「良識」に反したりすることはやるべきではありません。

 ここまで述べてきた3つのポイントを軸に、「どの範囲のリスクなら許容できるか」を明確にしておけば、リーダーはそれほど迷うことなく「決断」ができるのではないでしょうか。

なるべく早く「失敗」したほうがいい

 そして、リーダーが「やる」と決めたら、部下には「失敗」を恐れずに、思いっきり「挑戦」させてあげる。いや、僕はむしろ、なるべく早く「失敗」してもらったほうがいい、とすら考えています。

 もちろん、これは業種にもよると思います。ひとつのプロジェクトに多額の投資がかかる業種では、そういうわけにはいかないでしょう。

 しかし、球団経営の場合は、日々、さまざまなイベントをやって、お客さまに「感動」を届けるのが「主戦場」となります。つまり、一つひとつのプロジェクトにそれほど大きな投資がかかるわけではありませんから、慎重になりすぎるよりも、とにかくチャレンジをしたほうがいい。そして、なるべく早く「失敗」をして、どんどん修正していくのが、「正解」に最速で辿りつく方法だと思うのです。

 そんな考えでしたから、僕たちは無数の「小さな失敗」をしてきました。
 ひとつエピソードをご紹介しましょう。ある社員が、アイドルグループを球場に呼んで、試合前と5回終了後のグラウンド整備の間に一曲歌ってもらうという、集客イベントを企画したときのことです。

 この提案を聞いた僕は、面白いアイデアだと思いました。当時はまだ、球場に空席が目立つ日が多かったので、いかに野球に興味のない方々に球場に来ていただけるか、そして、そういう方々に野球の面白さを感じてもらうかが僕たちの大きなテーマだったからです。

 その観点から考えると、アイドルのファンに球場に来ていただくことによって、新しい楽天ファンを増やす可能性がおおいにある──。そう考えた僕は、「GOサイン」を出したのです。

「失敗」するから「成功」に近づく

 ところが、その期待は裏切られてしまいます。
 いや、滑り出しはよかったんです。そのアイドルの若いファンのみなさんがたくさん球場に来てくださり、試合開始前のステージに黄色い歓声を上げてくれたからです。いつもの球場とは違う「華やかな雰囲気」を、他のお客さまも楽しんでくださっていたように見えました。

 でも、そこには“落とし穴”がありました。5回終了後のステージが終わると、約1000人のアイドルのファンが一斉に席を立ってしまったのです。ポコッと約1000人の座席が空いてしまい、それまで華やかな雰囲気だっただけに、なおさら「寂寥感」が漂う結果を招いてしまいました。

 明らかに、このプロジェクトは「失敗」。そして、その原因も明白でした。僕たちは、アイドル目当てであっても、せっかく球場に来て試合を見ているのだから、最後まで野球を楽しんでくれるだろうと思い込んでいたのですが、それはあまりにも甘い見通しだったのです。

 とはいえ、「狙い」はよかった。
 だから、僕たちは、前回の「失敗」を踏まえて、再度、チャレンジをしました。

 今度は、アイドルのステージを、試合前、5回終了後、そして、試合終了後の3回やってもらうことにしたのです。しかも、試合中は、アイドルも一緒に楽天野球団を応援していただけるようにお願いしました。

 すると、今度は見事に成功。
 たくさんのアイドルのファンが駆けつけてくれたうえに、アイドルと一緒に野球を一生懸命応援してくださいました。しかも、試合終了後のステージまでおひとりも席を立たず、「初めてプロ野球を観戦したけど、すごく楽しかった」といった感想をたくさん寄せてくださいました。

 プロ野球に全く興味のなかった人が、アイドルのおかげで球場に訪れ、その中から数%でも「また、楽天の応援に行ってみるか!」と思ってもらえたのなら大成功。その手応えを十分に感じさせる、最高のイベントとなったのです。

「どの程度の失敗を許容できるか」を明確にする

 このように、可能性のある企画はとにかくやってみる。
 そして、なるべく早く「失敗」したほうがいいのです。
 大事なのは、「失敗」を素直に反省して、「改善」をしたうえで再チャレンジすること。そのサイクルをスピード感をもって回すことこそが、最速で「正解」に辿り着く方法なのです。

 もちろん、実際にやってみると、企画自体が全く的外れだったことがわかることもあります。だけど、それはそれでいいのです。
 一つの「可能性」が消えたことがはっきりしたわけで、それ以外のアイデアを試してみればいい。
 とにかく、グズグズ考えているよりも、トライしてみることが重要だと思うのです。

 そして、リーダーの仕事は、社員や部下が安心して思い切ったチャレンジができる「状況」を整えてあげることです。そのために必要なのは、「どの範囲なら、失敗するリスクを許容できる」のかを明確にすること。その「範囲内」であれば、社員たちにはどんどんチャレンジしてもらえばいいのです。

 もちろん、その「失敗」の責任をとるのはリーダーです。そこから逃げてはならないと思います。だけど、そんなに恐れることはないはずです。事前に、しっかりと「どの範囲のリスクなら許容できるか」を考えておけば、それほど「大きな失敗」にはならないのですから。

(この記事は、『リーダーは偉くない。』の一部を抜粋・編集したものです)。