「動作解析ってね、いろいろなことを知っておかないと分析できないんですよ」

 片貝の説明によると、投手には6つの「ゼロ点」というものがあり、パソコンでの解析の際に、そのポイントのズレによって、投手のモーションや動きがいつもと違っていることが即座に分かるのだという。

「だから、結構技術が必要なんですよ」

 プログラミングが可能なまでにパソコンに精通している片貝だからこそ、その運用はたちまち評判となった。

 試合後、練習後と、投手陣がこぞって片貝の部屋を訪れるようになった。エースの吉見一起(現侍ジャパン投手コーチ)をはじめ、当時の投手陣の多くが事あるごとに「撮ってください」と片貝に依頼し、その分析に全幅の信頼を寄せるようになったのだ。

 感覚と経験則だけのコーチングから、綿密なデータと映像による分析をもとに、自らの練習法や調整スケジュールを組み立てる時代に入っていた。

「医者に例えてね、レントゲンがあるでしょ。それを見て診断するのは医者だと。俺たちはレントゲンを撮っているんだと。それを見て判断するのはコーチ。そのために入れたんですよ。選手は、口で抽象的なことを言われるより、見た方が早いわけですよ。『きょうは肘がこうなっている』とか『ちょっと下がってるんじゃねえ?』って言ったら『ああ、そうですよね』と。でも、コーチが『下半身が』とか言ってる時に、こっちが腕をやってたらおかしいじゃないですか。それで、(コーチの)言うこと聞かねえ、っていう話が出てきて」

 2000年代前半でも、まだこんな“軋轢”が起こるような時代だった。ただ、監督の落合博満の現役時代に1軍打撃コーチ補佐も務めていた片貝は、機械の目への“不信感”を抱く落合の気持ちは、よく分かったのだという。

「あんまり、そういうのは好きじゃないんだろうね、落合は。『動作なんてのは、俺が見ればいい』くらいに思ってたね。でも選手はよく来ましたよ。だから、そうするとピッチングコーチとかが、やっぱり嫌がるわけですよ」