――「風邪ならば放っておいて治ることも多いが、『うつ』はきちんと治療を受けなければ、自殺のおそれもある大変に危険なものだ」

――「『風邪』というよりは、治療期間も長く安静を必要とするから、むしろ疲労骨折に喩えるべきだ」

 などの意見も聞かれます。

 確かにそういった意味で、「うつ」というものが「風邪」という表現に収まり切らないことも事実です。

 しかし、ここで私があえて問題提起したいと思うのは、またそれとは違った観点からのことなのです。

2つの誤解を
生みだすおそれ

 「うつは心の風邪である」というキャッチコピーによって、多くの患者さんたちが気軽に医療機関を受診し相談しやすくなったことは事実であり、とても意義のある啓蒙が行われたと言えるでしょう。しかしながら、受診後の治療を進めていくうえで、この表現には、2つの誤解を生んでしまう要素も含まれていると考えられるのです。

 それは、「うつ」の治癒イメージについての誤解と、「うつ」をどう捉えるべきかをめぐっての誤解の2点です。

「うつ」治療のゴールは?

 「うつ」が「治る」ことについて、専門医は多くの場合、「治癒」という言葉は使わずに、「寛解(かんかい)」という専門用語を用います。この「寛解」とはremissionの訳語で、症状が緩和され病気の勢いが治まった状態を指す言葉で、身体疾患では白血病などでよく使われる表現です。

 つまり、これは完全に治った状態を指すのではなく、病気の勢いが衰えて症状が出ていない状態を示す言葉です。さらに言えば、再発の危険性が残っていることを視野に入れた概念だということになります。

 巷で一般的に行われている薬物療法と休養主体のスタンダードな治療では、たいていはこの「寛解」が目標地点になっています。それは、どうしても再発が防ぎ切れないという限界があるためです。

 ですから多くの場合、「寛解」後にも当分の間は再発予防のために「無理をしないように」という指示を守っていかなければなりませんし、少量ですが薬物療法の継続も必要とされることが多いのです。