尾中香尚里 著
小選挙区制度を導入したことによって、世論の風向き次第で政権交代は以前より起きやすくなっています。だからこそ自民党は「絶対に政権交代が起こらない」状況を無理やりにでも作り出すことに躍起になっています。安倍元首相が「悪夢の民主党政権」と批判してきたのも、ある意味同じ趣旨のものと言えます。
政権を奪還して以降の自民党は、コロナ禍などの非常事態を機に、政権担当能力の劣化ぶりをさらけ出しました。少し冷静に考えれば「民主党政権の方がまだましだったのでは?」と思えることが、実は多々あります。そのことに国民が気づいてしまわないよう、彼らは余計に野党批判に血道を上げているのでしょう。
以上の二つの理由が、野党を「万年野党」の位置に押し込める、つまり「昭和の政治」に押し戻すことが目的ならば、第三の理由は方向性がやや異なります。「政権批判はほどほどに、政権に建設的な提案を行える野党が良い野党」というふうに、国民の野党観を変えてしまいたい、ということです。「それこそが「政権担当能力のある政党」であり、2大政党の一翼たる野党第1党はそうでなければならない」と。
これはむしろ、野党を「平成の政治」の位置に押し込めようとする動きだと言えます。実際、小選挙区制が導入された平成の時代から、当時の野党第1党だった民主党には、何かにつけてこういう圧力がかかっていました。立憲民主党に対する「提案型野党であれ」という批判も、まさに同じ趣旨のものです。
はっきり言って根本的に間違っています。「提案型野党」という言葉自体に「だから批判を前面に出してはならない」という圧力が含まれているからです。
野党は「批判も提案も」どちらも行うのが当たり前です。二者択一を迫る必要など全くありません。にもかかわらず、野党を批判したい勢力は、あえて「批判か提案かのどちらかを選べ」と迫ることによって、野党の役割をごく一部に限定させ、結果として弱体化させようとしています。こうした狙いを見抜けない野党は、結局衰退していきます。