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【新連載】「ムーアの法則」に迫る経済的限界
――プロセッサ動向から読む、スマートフォン市場競争の行方

佐藤一郎 [国立情報学研究所・教授]
【第1回】 2013年4月9日
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 このあたりの数字は設計・開発に関わるメーカにしか分かりませんが、いまどきのスマートフォン向けSoCを新規開発した場合、1000人程度の開発者と4年程度の時間がかかるのではないでしょうか。つまり設計だけでも百億円単位の費用がかかります。このため、いくらスマートフォン向け最新プロセッサに需要があるといっても、おいそれとは手が出せない、やはり数が売れないと採算がとれない。いくら既存回路を流用して設計するにしても、1年から2年程度の時間はかかります。

 仮に機能満載の自社設計スマートフォンを企画しても、その機能を使うにはその機能を扱うための回路を入れたSoCを設計しないといけません。ただし、そのSoCの設計を請けてくれる事業者も減ってきています。Appleの場合、iPhone 3GまではSamsung設計のARM系プロセッサを使っていましたが、2010年発売のiPhone 4(正しくはiPadから)からは自社設計のARM系プロセッサに切り替え、実は世界有数のプロセッサ設計会社になっています。この時点でいまの状況を読んでいたとしたら、相当先見の明があったといえます。

 前述のようにスマートフォン向けプロセッサの新規開発が難しい状況では、Appleを含めて、スマートフォン向けプロセッサの設計実績のある企業は非常に有利な立場になります。

生産数が多い技術ほど進化が速い

 多くの技術がそうであったように、生産数が多い技術ほど進化が速い。当初は低性能でも、既存の高性能技術を追い抜いていくことになります。

 スマートフォン、そしてその兄弟に当たるタブレットを含めるとその生産数は、PCのそれを凌駕しています。その意味ではPCからスマートフォンへ技術リーダが移っているといえるでしょうし、他分野にスマートフォン技術を積極的に導入する動きが出てくるでしょう。

 実際、クラウドコンピューティングやデータセンター事業者はARM系プロセッサを搭載した低消費電力サーバに高い関心をもっていますが、その背景にはスマートフォンという高い需要のある製品に使われているからこそ、ARMプロセッサの今後の発展が期待できるからでしょう。

 当方はソフトウェアの研究を生業としていますが、そのソフトウェアがハードウェア、プロセッサで実行される以上、そのプロセッサ技術動向は大きな関心事です。だからプロセッサ動向、その中でも数が出るスマートフォン向けプロセッサは最重要関心事になりますし、その動向を知らずにソフトウェア研究はできないといっても過言ではありません。

 今回は現行スマートフォンのプロセッサを中心に書きましたが、半導体プロセスの最新技術は20nm以下に移行しつつあり、20nm以下におけるプロセッサ動向は、いずれ書くことにします。

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佐藤一郎
[国立情報学研究所・教授]

国立情報学研究所アーキテクチャ科学系教授。1991年慶応義塾大学理工学部電気工学科卒業。1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了。博士(工学)。1996年お茶の水女子大学理学部情報学科助手、1998年同大助教授、2001年国立情報学研究所助教授、を経て、2006年から現職。また、総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻教授を兼任。
専門は分散システム、プログラミング言語、ネットワーク。

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分散システムの研究を核としつつ、ユビキタス、ID、クラウド、ビッグデータといった進行形のテーマに対しても、国内外で精力的に発言を行っている気鋭のコンピュータ・サイエンス研究者が、社会、経済、テクノロジーの気になる動向について、日々の思索を綴る。

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