物資の重要性は認識されたが
人材確保の考えがまだ甘い日本
ほかにも『失敗の本質』には、組織論からは少し外れますが注目すべきポイントがいくつかあるので紹介しましょう。
1つは「補給」について。書籍では日本軍の敗戦の一因が補給不足だと指摘しています。特にガダルカナル戦やインパール作戦ではそれが顕著でした。短期決戦ですぐに陣地を取り返し、敵から食料や物資を奪うことができるという楽観的な予想のみを前提に計画を進めたのです。
『失敗の本質』の中では、日本軍にはコンティンジェンシープラン(想定外の事態が起きたときに実施する施策)が欠如していたと何度も指摘されています。また作戦が失敗したときに、補給路の確保を重視する認識にも欠けていました。一方、米国は補給路の重要性を理解していたため、長く伸びた日本軍の太平洋上の補給路をいかに断つか、戦略的に動いています。
現代の日本では、企業活動における物資補給の重要性は認識されています。特に製造業におけるサプライチェーンの確保は、総じてうまくいっていると言えるでしょう。ただし人的リソースの確保についてはまだ弱い部分もあり、物流の2024年問題をはじめ、解決すべき課題が山積しています。
これまでは人を増やさずに、現場の練度向上、改善努力で賄ってきた企業も多いと思いますが、それだけに頼ることは危険です。太平洋戦争においても、練度の高い人材の喪失と補給不足が敗戦の一因となっています。旧日本軍の状況は、現代における人材管理の課題と類似したところがあるのではないでしょうか。
戦時中からハード偏重で
ソフトが弱かった日本
『失敗の本質』を読んでいて、私が驚いたことがあります。1984年に出版され、戦時中の組織論を取り上げたこの本には、「ソフトウェア」というキーワードが登場するのです。日本軍の技術体系ではハードウェアに対してソフトウェアの開発が弱体であったとの指摘がそれで、ここでいうソフトウェアとはレーダーや通信などの情報システムを指します。