米国にもあった組織内対立
合理的判断の有無が明暗を分ける
3つ目は「組織内の対立」です。
『失敗の本質』では組織内の対立も日本軍敗戦の原因として挙げられています。対立はいくつかの部分で起きていますが、ここでは海軍と陸軍の対立を例として取り上げます。
ガダルカナル戦やレイテ戦では、陸海軍が策略を通じ合って共同で作戦に当たることはかなわず、むしろガダルカナル島では陸海軍の思惑の違いが防御に転じるべき時点を見誤らせ、犠牲を大きくしました。レイテ戦は本格的な陸海空一体の統合作戦として戦われるはずでしたが、陸海軍の間どころか、海軍内部の統合作戦さえ実現しませんでした。
『失敗の本質』では言及されていませんが、実はマッカーサーとニミッツは対立することも多く、そこへ空軍の独立的地位を確立しようとするヘンリー・アーノルド司令官も加わっての縄張り争いが繰り広げられていました。しかし米軍では、合理的な判断を優先させる組織文化が確立されていたようで、さらにルーズベルト大統領直下の組織が軍全体を指揮していました。組織内の対立がむしろ、成果を競い合う原動力として機能していた節もあります。
今の日本の企業・組織にもよく似た問題はあり、多くの会社で事業部間、あるいは営業担当と開発担当の間などに対立があると聞きます。その要因には、全社としての目的遂行の意識の弱さ、トップダウンの弱さがあり、組織文化が醸成されていないこともあると考えられます。
旧日本軍において敵とは本来、海軍から見た陸軍、陸軍から見た海軍ではなく、共通であるはずです。ところが陸軍はアジアを、海軍は太平洋を主戦場と見ていたため、統一された敵と目的を持てず、互いの戦略を良しとしないところがありました。
同じように今の日本企業でも、例えば営業と開発の間で互いに目的が統一されていないがゆえの対立というのはよくある話です。
米国企業でも組織内の対立はあります。しかし米国の場合は株主責任がより強く働き、CEOが更迭されることも頻繁で、常に正しいことを遂行する能力と結果責任が求められます。業績が悪化した際にはトップの責任問題として扱われ、組織の運営にメリハリがある点は日本の多くの企業と異なります。
『失敗の本質』の中で何度も語られていることの1つは、「日本の組織文化では合理的な意思決定よりも、多分に情緒や空気を重んじる傾向がある」という点です。それは現代の日本企業の中にも根強く残っているように思います。