日本軍は情報を取得し、分析し、適切に活用する能力において劣っていたということですが、現代の日本においてもハードウェア偏重主義の姿勢は変わっていないという感想を持ちました。

『失敗の本質』における私の最後の注目ポイントは、ものづくりにおける標準化についてです。本書には標準化と大量生産の重要性が挙げられています。米軍は最初から物量戦を見越して、次々と戦艦や飛行機を作るための資源確保・投入を繰り返していました。そのため「いかに標準品を大量に作るか」という、その後の製造業につながる発想をこのときに導入しています。

 現代の日本の製造業には大量生産の能力はありますが、カスタムメード的なアプローチは残っています。ヨーロッパのコンポーネント化された部品を組み合わせるやり方ではなく、すり合わせで統合する手法もよく取られます。

 IT業界に目を向けても、標準品を大量に普及させているのはマイクロソフトやアップルのような企業です。日本はこの分野でも、まだ戦時中の失敗の本質からしっかりと学びきれていないのかもしれません。

「負けに不思議の負けなし」
失敗からの学びを生かす

『失敗の本質』著者の1人の野中氏は、後に新聞に著したコラムでも「失敗を題材にし、そこから学ぶべき」と述べています。

 私の好きな言葉に、故・野村克也監督が江戸時代の剣術書から引用した「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という名言があります。うまくいったケースより、失敗からの方が学べることは多いのです。社外には出せなくても、企業・組織の中では失敗をきちんと共有できるようにすべきだと考えます。

 今の言葉なら「アンチパターン」とでも言い換えられるでしょうか。「こうすると失敗する」というパターンには、いくつかの法則があるのです。そうした法則をしっかりと共有し、そこからの学びを生かして同じ失敗を繰り返さないよう努めなければなりません。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)