失敗を認めない空気が
失敗から学べない体質を生む
4つ目のポイントは「学習の欠如」です。
『失敗の本質』では、戦略策定の方法論について「日本軍は帰納的、米軍は演繹的」と述べられています。
ある法則から個別の問題を解く演繹法と、経験した事実の中から一般的な法則を見つける帰納法は本来、双方を常に循環させることが必要です。本書ではしかし、「日本軍は事実から法則を析出するという本来の意味での帰納法も持たなかった」としています。そして日本軍の戦略策定について、「多分に情緒や空気が支配する傾向」があり、「科学的思考が、組織の思考のクセとして共有されるまでには至っていなかった」と指摘します。
日本軍の「状況ごとにときには場当たり的に対応し、それらの結果を積み上げていく思考方法」について、この本では「客観的事実の尊重とその行為の結果のフィードバックと一般化が頻繁に行われるかぎりにおいて、とりわけ不確実な状況下において、きわめて有効なはずであった」としています。これはまさに今でいう仮説検証サイクルを表しています。
しかし、戦時中実際に起きていたのは「対人関係、人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学び取ろうとする姿勢の欠如」でした。「本人も反省している。これ以上傷に塩を塗ることはない」といった“空気”が場を支配していたのです。この根底には、失敗を失敗と認めない文化があると考えられます。
対する米国は、真珠湾攻撃からの学びとして大艦巨砲主義からすばやく脱却。技術革新を基盤として航空機を兵の主力とする転換を行っています。
さて、今日の日本企業の状況はどうでしょうか。今でも日本の組織では失敗を許さない空気が支配しており、リスクを避ける姿勢がまん延しています。
障害が起きた際の模範的な対応を考えれば分かりますが、本来は失敗した個人を責めるのではなく、組織として失敗に至ったプロセスを客観的に検証し、二度と起こさないために改善を図ることが次の学びとなります。また、いくつもの小さな失敗から学ぶことが重要です。しかし実際には失敗を認めないがゆえに、その積み重ねによる大きな失敗でことが発覚することがよくあります。
今日の事業における仮説検証は戦時下と異なり、基本的には命を賭ける必要はありません。しかし、それでも失敗を許さない、失敗を失敗と認めない傾向がいまだに残っているのです。事業での失敗は学びの機会とすべきですが、今の日本の企業文化では、その機会が十分に活用されていないと感じられます。