最初に強い者が勝ち残らない:歴史の3つの教訓

 過去140年で私たちは歴史から「3つの教訓」を学べると考えています。

(1)最初に強い者が勝ち残るとは限らない

 300年間続いた江戸幕府は、武士の世界では岩のように硬いと信じられてきた統治組織でした。江戸幕府という存在が日本社会の基盤だったのです。日米戦争では、一時期は日本軍が軍備の規模において優勢だった戦争が存在します。
  
 最初に強い側が勝ち残るとは限らないのが歴史の教訓です。終戦後、日本人の多くはアメリカの物資の豊富さ、日本で走り始めたアメリカの自動車の優秀さに驚きました。その十数年後、アメリカの自動車メーカーの世界市場を奪ったのはほかならぬ日本の自動車メーカーだったのです。

(2)「臆病さによる蛮勇」と「謙虚さを伴う勇気」では後者が勝つ

 勇気には2つの種類があります。一つは、冷徹な現実を受け入れることができない「臆病さから生まれる蛮勇」です。もう一つは、自分の外的環境の変化や相手の強さや優秀さを受け止める「謙虚さを伴う勇気」です。
  
 ペリーの黒船が浦賀に出現した時、日本とアメリカの技術や文化格差に驚き、積極的に海外知識を吸収して学ぶべきだと考えた側と、起きている変化や相手を見極める前に、とにかく現状を維持しようとかえって無理を重ねる側が出現しました。

 歴史の教訓は、現実を見据えることができない臆病さが原因で追い込まれていく側が「無謀な勇気」を発揮して敗れ、現時点の優劣を冷徹に理解する謙虚さを持った側が最終的に効果的な対策に突き当たることで勝利することを教えています。
  
(3)「優れた学び」を続ける側が最後に勝ち残る

 第2次世界大戦時、日本海軍のゼロ戦は一時期無敵を誇る高性能を発揮しましたが、米軍は性能差を急速に逆転する研究を続け、途中からゼロ戦は苦闘するパイロットと共に撃ち落され続けることになります。そして、日本軍はこの劣性を挽回できる学びを得る前に、敗戦を迎えます。変化の前に「優れた学び」ができる側は、一時的に劣性でも必ず逆襲をすることが可能です。
   
 これら3つは、過去140年の歴史を見た上で引き出せる教訓でもありますが、同時に福沢諭吉という啓蒙思想家・偉大な教育家・実業家が書いた『学問のすすめ』が何度も指摘するエッセンスの一部でもあります。

 幕末明治初期の、大転換期に日本中で読まれた超ベストセラーの書が『学問のすすめ』というタイトルを持つこと自体、ある意味で驚くべきことですが、現代日本に生きる私たち日本人だからこそ、この歴史的名著から改めて学ぶことが多いのです。