近年、犯罪者の矯正プログラムとして開発されたアンガーマネジメントを、ハラスメント対策に使う企業が増えた。
よく知られているテクニックは、怒りの感情が湧き上がった際に六つ数える「6秒ルール」だろう。
そのほか、怒りを誘発する事柄への見方を変える「再評価」、怒りを感じる自分や状況を第三者的に見る「自己距離化」などのテクニックがあるが、正直、イラついているときに実践するのは難しい。
そこで名古屋大学の研究グループは、より実効性が高いアンガーマネジメント法を開発、実証実験を行っている。
被験者は同大に通う学生57人(女性16人、平均年齢21歳)で、冷静なときの「怒りスコア」を記録した後、一般的な社会問題についてエッセーを書いてもらった。
次に、先輩の大学院生がエッセーを9点満点で評価。このとき、実際の出来不出来にかかわらず、2~4点の低評価と共に、「とても教育のある人が書いた文章とは思えません」など、屈辱的で辛辣なコメントが付け加えられた。
被験者は、屈辱的なコメントに抱いた気持ちと、その理由を紙に書いた後、記載紙を(1)丸めて捨てる、もしくはシュレッダーにかける「廃棄群」と、(2)机の上のファイルに保存する「保存群」に割り付けられた。
その結果、被験者の「怒りスコア」は屈辱的なコメントで有意に上昇したが、怒りの感情を筆記した後は速やかに減少。特に「廃棄群」は当初のベースライン付近まで有意に低下した。
ちなみに、「丸めてポイ派」も「シュレッダー派」も、ほぼ完全に怒りが消えていたのである。
一方「保存群」の怒りは、多少は収まったものの、依然として高いままだった。
研究者は「怒りを紙に書き出して捨てるという方法は、ビジネスシーンに応用できる」とし、今後、メールなどのデジタル媒体でも怒りの抑制効果があるかどうか、検証が必要だとしている。
新年度も2カ月が過ぎ、互いのさまざまな面が見えてくる時期だろう。不要な怒りは「書いて、破って、ポイ」していこう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)