理由はさまざまですが、私たちの健康より、特により大きな価値があると感じたときに無理する傾向があるようです。

 ただ、そもそも、その体と心がなければ、他に貢献できる機会がなくなると心からわかれば、もっと上手く、賢くエネルギーキープできるようになるはずです。

 それは怠惰ではなく、健全なエゴイズムです。

 そのエネルギーを保存することで、長期にわたって社会に貢献できると、忘れないようにしましょう。

うつ病で「やっと休める」は
切迫した社会問題である

 日本では近年、休職と自殺率が増加しており、労働者が精神的にも身体的にも大変な状態であることが、複数の研究者から指摘されています。

 長時間の労働に伴う負担は、日本社会に過労死という大きな打撃を与えました。

 過労死は、海外には日本特有の職業性突然死と思われています。

 仕事に伴う燃え尽きとストレスが原因とされ、脳卒中や心臓発作、さらには故意の餓死があげられています。

 封建時代の日本では、武士の切腹が戦いに敗れたとき、あるいは責任をとるための正当な処置と考えられていた経緯もあり、自殺は多くの日本人にとって、自由意志による行為として「正当化」されていました。

 しかし、欧米の社会と親密になることで、うつ病など精神疾患との関係など、新たな概念で自殺を考えるようになり、「過剰労働による自殺は過労死だ」と認識されはじめたのです。

 シカゴ大学とマッギル大学で研修を受けた医療人類学者で、現在、慶應義塾大学文学部人文社会学科教授の北中淳子氏(博士)は、自殺と過労の関係の社会的な認識の変化について次のように語ります。

 100年以上にわたって、自殺は個人の自由な行為で、「ロマンチックな覚悟」であったのが、多大な社会的プレッシャーや抑うつ状態から生じるという、新しい概念の登場でその認識は一変しました。

 ロマンチックあるいは理想主義的な考え方から、広範な社会的医療化に繋がる問題としてシフトされたのです。

欧米の労働者も長時間労働なのに
日本より過労死リスクが低いワケ

 では、日本の労働者は他の国と比較して、本当により過労死が多いのでしょうか?

 メランコリー親和型(秩序に対するこだわり、ルールに忠実性をもち、献身的な人、真面目で責任感がかなり強い)性格のうつ病の患者さんの多くが、仕事に熱心で、几帳面、徹底的、正直、時間を守る、正義感、義務感、責任感の強い、社会適応力のある、いわゆる「模範的」な社員であることは、かなり前より指摘されてきました。