欧米で「選挙妨害」は当たり前、公選法改正は必要なのか【池上彰・増田ユリヤ】衆議院東京15区の補欠選挙の選挙期間中に、他の候補者の前でプラカードを掲げる「つばさの党」の根本良輔氏(手前右から3人目)。2024年4月25日撮影 Photo:JIJI

欧米では選挙妨害はあって当たり前

池上 東京15区の衆議院議員補欠選挙で「選挙妨害」に注目が集まりました。候補者を出した「つばさの党」の陣営が他の候補者の演説現場に乗り込み、選挙運動を妨害したという容疑で党の代表など3人が警視庁に逮捕されました。逮捕容疑は一つの陣営に対する妨害行為ですが、他の陣営からも被害届が出ているので、これからそれぞれの容疑で逮捕を繰り返していくことになるでしょう。

増田 彼らは7月に行われる東京都知事選挙でも同様のことをすると宣言していましたから、逮捕されても立候補するかもしれません。妨害目的の行為は悪いに決まっていますが、ことさら問題視する風潮にも疑問が残ります。というのも、ドイツやフランス、米国など海外の選挙の様子を取材してきた経験からいうと、選挙運動に対する妨害や抗議は日常茶飯事だからです。今回の件も「日本でもそういうことをやり始める人たちが出てきたんだな」という感想です。

池上 実際にはどのような状況になっているのですか。

増田 例えば2018年にドイツでバイエルン州の州議会議員選挙を取材した際には、極右政党の集会があるとなると、抗議のために反対派が集会の開始時刻よりも前に、同じ場所に集まっていました。そしてこれから来る政党がいかに危険かを人形劇で説明したり、抗議の仕方を練習したりするんです。

 集会が始まると警察が張った規制線や柵を挟んで双方がやり合うわけです。そのときは右派政党が集めた人数よりも反対派の方が何倍も多く集まっていたほどでした。

池上 そのドイツでは、6月上旬に行われる欧州議会選挙の立候補者のポスターを張っていた社民党の議員が、極右過激派の集団に襲撃されるという事件が発生していますね。

増田 襲撃となれば当然、警察の捜査の対象になります。しかし、暴力を伴わない抗議や妨害ならば警察は止めませんし、抗議する側もされる側も、そうしたことが行われるのは当然だと思っているのではないでしょうか。

 米国でも、例えばトランプ氏が集会を開くとなったら、反トランプ派の人たちが会場前に集まって抗議していますよね。太鼓をたたいたり、プラカードを掲げたり、ブーイングを行ったり。16年の大統領選挙では、反対派が来ることを見越してか、トランプ支持者も「ヒラリーを監獄へ!」なんて書かれたTシャツを着ていました。