「経営計画を達成したい」「生産性を向上したい」「DXを加速したい」「組織風土を変えたい」「人的資本経営に取り組みたい」「離職増加をくい止めたい」……。将来の姿を描きつつ、さまざまな変革に取り組むものの、「何をやってもうまくいかない」「何度やっても結果が出ない」という企業は少なくありません。
『カスケードダウン――人と組織が自ら動く経営戦略の浸透策』は、そんな悩める企業のための変革手法「カスケードダウン」のノウハウをまとめた1冊です。本連載では、企業変革の勘所とカスケードダウンの基本を3回にわたってお伝えします(今回は最終回)。
コスト削減はもう限界
生産性向上で求められる「事業変革」
主要先進国の中で、日本企業の生産性は最も低いという状況が続いています。各企業は生産性向上に向けてさまざまな取り組みを行っていますが、昨今は「最新のITツールの導入」「スキルアップ研修の実施」「無駄な業務、会議、報告等の削減」といった改善策が進められています。
もっともこれらは、バブル崩壊以降、多くの日本企業で進められてきた改善策と代り映えしないものです。既存事業の延長線上で「業務効率化」や「働き方改革」といった改善策を進めても、生産性の向上には決して結びついていかないのです。
どうすれば日本企業は生産性が向上するのでしょうか?
まず考えなければならないのは、「生産性向上とは一体何なのか?」ということです。
生産性とは、設備や時間、人、お金など企業が投入した経営資源(分母)に対して、どれだけの成果や価値を生み出したか(分子)で決まります。
日本企業がバブル崩壊以降、行ってきたのは「原価低減」「負債削減」「資産処分」「人件費削減」などの分母を小さくするコスト削減策でした。財務体質を改善して何とか利益を捻出し、生産性を維持してきたのです。
しばらくは効果を発揮したコスト削減策ですが、時間がたつとともにその効果は薄れ、企業の疲弊感は増していきました。行き過ぎたコスト削減策は、品質やサービスの低下をまねいたり、不祥事や不正の温床となることもあります。
一方で、2000年以降に急速に進んだグローバル化やIT化といった事業環境の変化の中、日本の高度成長期を支えてきた伝統的なビジネスモデルや産業構造、事業構造からの脱却ができず、競争力の低下、企業活動の成果や価値の縮小に歯止めがかかっていません。
いま日本企業に求められている生産性向上とは、事業構造の変革により、分母である成果や価値を増やしていくこと。つまり、既存の事業をDX(デジタル・トランスフォーメーション)やグローバル化によって変革する、あるいは全く新たなビジネスモデルを創出していくことです。