日本経済の停滞についてはさまざまな議論があるが、単純なことを忘れている。それは、トラン・ヴァン・トゥ早稲田大学名誉教授が指摘したことだが、日本は投資が不足していたということだ。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)
日本経済には
投資が不足していた
トラン教授編の著書において、東京音楽大学の保倉裕理事は、1990年から2020年までの、日本、アメリカ、ドイツの実質投資を比べて、アメリカは2.4倍、ドイツは1.3倍になっているのに日本は1割も減少していると指摘している(トラン・ヴァン・トゥ/苅刈込俊二編著『成熟社会の発展論 日本経済再浮揚戦略』図2-1、文眞堂、2024年)。
これでは成長できる訳がない。日本はひたすら投資が不足していた。経済理論家は、投資よりも生産性を強調するが、投資がなければ新しい技術も導入できず、生産性が伸びる訳がない。
保倉氏のグラフに倣って、OECD統計から主要先進7カ国と韓国の実質投資を1990年=100として比べると図1のようになる。
これを見ると2023年には、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリス、アメリカ、韓国がそれぞれ232.1、167.6、135.5、131.6、210.1、278.4、345.8となっているのに、日本は89.9とむしろ減少している(日本、韓国、アメリカの数値は2022年)。これでは日本経済が成長するはずはない。
日本が半導体で韓国や台湾に負け、液晶や太陽光パネルや蓄電池で中国に負けたのも投資が不足していたからだ(OECD統計には台湾のデータはない)。
多くのエコノミストが、日本の停滞は、生産性が伸びず、高付加価値の新製品を作れなかったからだというのだが、投資が伸びるどころか減少している国が、2倍にも3倍にもなっている国との競争に勝てるはずがない。日本も、全体が3倍になっていたなら、半導体、液晶、太陽光パネル、蓄電池でも3倍以上の投資ができただろう。