東京IT探偵が使った
「社員の不正が即バレするAI」とは?

 疑わしい社員は、オフィス内での勤務態度は優秀そのもの。元気よくあいさつし、取引先とも良好な関係を築いている模範社員だった。ただし、社用車に乗っている時間がやたらと長く、本来であれば外回りを終えて帰社しているはずの時間帯になっても、なぜか社用車が「使用中」になっていることがしばしばあった。

社員の不正が即バレ!副業探偵が編み出した「オキテ破りのAI活用法」がドラマ顔負けだった東京IT探偵の“中の人”

 A氏は「何か怪しい」と感じ、社用車の中にボイスレコーダーを設置。この社員が外回り後に、車内で何やら話している音声を録音することに成功した。ところが、社員がわざと対策していたかどうかは不明だが、車内ではBGMがガンガン流れており、せっかく録った音声を聞き返してもほとんど内容が理解できなかった。

 手を尽くしてもどうにもならなかったため、A氏は「何とかしてくれ」と筆者のもとに駆け込んできたというわけだ。

 この際、一般的な探偵事務所であれば「ウチの探偵を何人か張り込ませますので、社員の動向を逐一把握しましょう。そのうちボロが出るはずです」などと答えるかもしれない。だが筆者は、「一般公開されているAI(人工知能)で音声を解析すれば、社員が何を話していたかすぐに分かるだろう」とA氏にお伝えした。

 筆者が使ったのは、楽曲解析AIの「Vocal Remover(ボーカルリムーバー)」。AIに楽曲のデータを読み込ませると、その中身を「ボーカル」と「インストゥルメンタルミュージック(歌のない音楽)」に分割する既存のサービスだ。本来であれば、カラオケ愛好家やDJが歌の練習やリミックスに使うためのものだが、今回は素行調査で活用した。

社員の不正が即バレ!副業探偵が編み出した「オキテ破りのAI活用法」がドラマ顔負けだった東京IT探偵が駆使した「Vocal Remover

 早速、A氏が録音していた音声をボーカルリムーバーに読み込ませ、会話だけを切り出した上で、音質のパラメータを調整した。すると、当該社員が話していた内容が手に取るように分かった。電話で何者かに「何日後に次の盗みを働く」「今度はコレをパクるつもりだが、いくらで買い取ってくれる?」といった予告・相談をしていた。さらに、実は別の社員が助手席に座っており、「自分は見張りをやる」などと役割分担していたことも発覚した。

 単に一人の社員が盗みを働いていただけでなく、複数の社員がグルになって、商品を外部に「横流し」していたのだ。

 筆者はそうした一部始終のやりとりを、丁寧にテキスト化して納品した。そこから先は探偵が関与するところではないので、「問題社員たちが逮捕されたのか」「会社をクビになったのか」「裁判沙汰になったのか」といった顛末(てんまつ)までは知らない。