このように、既存のITツールを使うだけで、探偵の調査は大幅に効率化できる。ただもちろん、尾行や張り込みなど、従来の手法が効果を発揮することも多いので、これらがムダだとは全く思っていない。案件を解決する上で大切なのは、尾行や張り込みとITをうまく組み合わせるバランス感覚だと考えている。

 とは言え、どんなに工夫しても、既存のITツールでは解決できない案件もある。そうした際は「奥の手」として、筆者が自ら分析用のツールやAIを構築している。

難題を解決する「奥の手」として
分析ツールを自作することも

「この男性を追っています。動画に写り込んでいたら教えてください」。他社の探偵から男性の顔写真を見せられた後、どこかのコンビニの出入り口を数十時間分撮影した動画を渡されたことがあった。筆者は他の探偵事務所への技術協力も行っているためだ。

 詳細はお伝えできないが、この案件ではプログラミング言語の「Python」を使って、顔画像を抽出するAIを構築した。動画の内容を解析し、「来店客の顔画像」だけを自動で切り出す仕組みにしたのだ。その結果、写真の男性が登場する場面をスムーズに特定できた。

 動画の尺が数十時間分あるのに対し、男性が写っていた時間は1~2分ほど。目視で探した場合は、膨大な時間を要していたはずである。自作のAIを使うことで、それとは比べ物にならないほど調査時間を短縮できた。

 この案件のほかにも、プログラミング言語「C#」を駆使して、インターネット上で特定のSNSアカウントが投稿している画像を大量収集し、類似画像を判定するシステムを構築したことがある。この事例では、不倫カップルが同じ飲食店を利用していることを突き止めた。

 こうした調査が可能であるにもかかわらず、筆者が「全ての案件を、自分で作ったITツールで解決する」ことにこだわっていないのは、調査を「早く、安く」済ませることで、依頼者の経済的負担を軽減したいという思いがあるからだ。調査費をリーズナブルな価格にすることで、他社との差別化を図るのが東京IT探偵の戦略の一つである。

 確かに、今回紹介した「ボーカルリムーバー」などのWebサービスは、他の探偵事務所も使うことができる。だが筆者は、依頼者が持ち込んだ案件に応じて、どのツールが最適かを瞬時に判断し、すぐに提案できるスピード感が自分の武器だと考えている。