退職代行サービスを使って退職を申し出た

 1週間後。Aは退職代行を使い、E部長宛てに退職を申し出た。慌てたE部長は1日中Aの携帯を鳴らし続け、実家にも連絡を取ったがつながらない。そこで夕方、課長、B主任、CとDを個別に呼び、Aが退職した理由に心当たりはないかと尋ねた。

 Dは、

「歓迎会の時、B主任が皆の前で、嫌がるA君にプライベートの話をしつこく尋ねたり、酒席に付き合わないと仕事ができないと言ったのが原因かもしれません。A君は酒が飲めないし、普段もほとんど個人的な話をしないから、ああいう場は苦手なんだと思います。自分もプライベートな時間をつぶしてまで酒席には参加したくないし、C君も歓迎会の後同じことを言ってました」

「まさか歓迎会のせいで新入社員が退職するとは思わなかった」

退職代行サービスとは

 E部長はDの話にショックを受け、午後所用で訪ねてきたF社労士に、Aの件について詳細を説明した。

「それは大変でしたね」

「まったくです。今日の午前中、A君の自宅へ行き直接話ができたらと思ったんですが留守でした。A君は仕事熱心で優秀なので、辞められるのは大きな痛手。何とか考え直してもらいたいんです」

「しかし退職代行を使うくらいだから、本人と連絡が取れたとしても会社側の引き留めには応じない可能性が高いと思います」

<退職代行とは>
○ 弁護士や代行業者などが労働者本人の代わりに会社に退職の意思を伝えるサービスのことをいう。
○ 退職の意思表示は、労働者本人が会社に口頭もしくは「退職届」等の文書を提出して行うのが一般的だが、退職代行を利用して意思表示をすること自体は法律違反ではなく、有効に成立する。