丸山 では、具体的にアリはどのように奴隷制を敷いているのか?これは、いろいろな様式があります。養老先生のおっしゃったサムライアリは日本でもよく見る種ですが、サムライアリの女王は、成虫になったらまず巣の外に出て交尾をします。普通のアリであればそこで一から巣をつくるのですが、サムライアリの女王はそうしません。単身、果敢にも、クロヤマアリの巣に入り込んでいきます。そして、当然クロヤマアリたちの抵抗に遭いながらも孤軍奮闘し、女王を鋭いアゴで殺し、自分が女王に成り代わってしまうんです。

暑い夏に行われる
サムライアリの強奪作戦

養老 女王を殺されると、なぜかクロヤマアリはサムライアリの女王を「自分の女王」と思うようになるんだよな。

丸山 そうなんです。不思議なほど、まったく抵抗しなくなります。それで、巣を乗っ取った新女王は、自分の卵をその巣にいるクロヤマアリの働きアリたちに育てさせます。やがて、もともと巣にいた働きアリは寿命で死んでいき、だんだん巣の中からクロヤマアリはいなくなっていく。ここまでが、いわば第一段階。

養老 クロヤマアリの卵を産む女王はとっくに殺されているからね。どんどん、サムライアリの割合が増えていく。

丸山 そうです。そして、サムライアリの割合が一定の水準に達すると、ついに強奪作戦の決行です。暑い夏の午後、サムライアリは大行列を組んで新たなクロヤマアリの巣に入っていきます。もちろん、突然現れた大群にクロヤマアリも抵抗して戦いますが、攻撃力ではサムライアリの圧勝。サムライアリは、その名のとおり武装集団です。口は鎌のような形をしていて、戦うために生まれてきたようなヤツらですから。

 悠々と蛹を奪って自分の巣に持ち帰り、孵るのを待つわけですが、サムライアリの巣の中で孵ったクロヤマアリは「自分はサムライアリの一味だ」と思い込んでしまうんですね。生まれたばかりのときには、種の匂いというのもなくて。だから、子育てからエサの調達まで、せっせと「自分の巣」のために働こうとするわけです。